日立製作所は、「直接メタノール形燃料電池(DMFC)」(画像1)向けに、水素イオンの伝導性を低下させることなく、メタノールの透過性を約1/2(同社比)に低減した「高分子電解質膜」(画像2)を開発し、高分子電解質膜をDMFCに適用することで、発電効率を約5%(同社比)向上する見通しを得たと発表した。今回の技術の詳細な内容は、3月25日から29日まで米サンディエゴで行われる「American Chemical Society Spring 2012 National Meeting」で発表の予定だ。

画像1。直接メタノール形燃料電池の構成

画像2。今回開発された高分子電解質膜の顕微鏡写真

近年、災害時などに使用可能な、既存の電力網とは独立した電源へのニーズが高まっている。同時に環境配慮の観点から、二酸化炭素排出量が少ない電源であることも重要だ。

燃料電池はこれらの要求に応えるクリーンな発電システムである。特にDMFCは、液体燃料であるメタノールを燃料電池に直接供給できるため、水素製造のための補機が不要になることから小型化が容易であり、ポータブル機器電源などへの応用が見込まれているシステムだ。

一方で、DMFCはほかの水素燃料電池と比較して、酸化反応が遅くなることなどから発電効率が低く、普及のためにはさらなる効率向上が必要とされている。そこで同社は今回、材料・システムの研究開発を進めてDMFCの効率向上を実現する高分子電解質膜を開発に取りかかったというわけだ。

燃料電池を構成する主要材料の1つである高分子電解質膜は、電子やガスなどは通さず水素イオンのみを透過させる性質が求められる。しかし、従来のDMFCはメタノールが高分子電解質膜を透過してしまうことによる燃料ロス、発電性能の低下が生じてしまっていた。

そこで高分子電解質膜のメタノール透過性を低減させると、今度は水素イオンの伝導性も同時に低下し、結果として発電性能が低下するという問題が生じてしまっていたのである。

メタノール透過性を低減させつつも水素イオン伝導性は高くという、並び立たない課題に対し、同社は高分子電解質膜の燃料吸収率がメタノール透過性に大きく影響することを見出し、燃料吸収率を低減することで高分子電解質膜の膨張を抑制する技術を開発したというわけだ。特長は次の通りである。

1つ目が、高分子電解質膜の分子構造の改良による燃料吸収率の低減だ。高分子電解質膜の分子構造について最適な組成を検討。その結果、従来と比較して分子間相互作用を高めた構造を適用することにより、メタノール水溶液と接触した場合にも電解質膜の膨張が抑制され、燃料吸収率を低減することに成功した。

低吸収率の電解質膜を開発したことにより、従来と比較して水素イオンの伝導性を低下させることなくメタノール透過性が低減され、発電性能の低下を防ぐことができたのである。

2つ目は、骨格部位の三次元ネットワーク化による燃料吸収率の低減。電解質膜の微細構造に着目し、電解質膜の膨張を抑制する骨格部位と水素イオン伝導部位にそれぞれ三次元ネットワーク構造を導入し、ナノオーダーでの制御が行われた。

骨格部位と水素イオン伝導部位がそれぞれ共連続構造となっているため、寸法安定性が高く、かつ効率的な水素イオン伝導が可能となった。このことも、電解質膜のメタノール透過性を低くし、水素イオン伝導性を高くするのに一役買っているというわけだ。

同社は今後、今回の高分子電解質膜をポータブル機器用途など小型電源への適用を目指すとしている。