九州大学は10月31日、佐賀県東松浦半島に広く分布する「松浦玄武岩」の鉱物学的調査において、レアアース元素の一種である「イットリウム」を含む、新種の鉱物2種類を発見したと発表した。これらを国際鉱物学連合の新鉱物・鉱物名・分類委員会に申請した結果、承認され、「肥前石」(ひぜんせき)、「イットリウムラブドフェン」と命名されたことも合わせて発表されている。今回の発見は九州大学理学研究員地球惑星科学部門の上原誠一郎助教と高井康宏研究員らの研究チームによるもの。

11月19日(土)開催のフクオカサイエンスマンスとの共催で、理学研究員の鉱物標本の一般公開が九州大学箱崎キャンパス総合研究博物館第一分館の自然科学資料室で行われ、今回の新種鉱物も初めて一般公開される。また、成果は英鉱物学会「ミネラロジカルマガジン」10月号に掲載された。

天然のレアアース鉱物の産出状態には未だに不明な点が多く残されており、研究チームは国内外の野外調査を行い、鉱物学的研究を実施中だ。佐賀県東松浦玄武岩中にイットリウム、ランタン、ネオジム炭酸鉱物が産出することはこれまでにも知られていたが、それらの鉱物の広域的な分布状態、鉱物学性質の変動などは不明だった。そこでこの地域全体の野外調査を行い、試料収集を行って鉱物学的分析が行われた次第だ。

今回発見された新種の鉱物の1つである肥前石の特徴だが、まず理想科学組成は「Ca2Y6(CO3)11・14H2O」だ。地表付近のマグマが急速に冷え固まった、黒色の鉱物を多く含む火成岩の一種である玄武岩の「晶洞部」に産出する。大きさで25~50μm、厚さ0.04~0.2μmという非常に薄い板状結晶が集合しているのが構造的な特徴(画像1)。肉眼では白色透明から半透明で、強い絹糸光沢を示す。模式地は、佐賀県唐津市肥前町満越だ。

もう1つのイットリウムラブドフェンの理想科学組成は「YPO4・H2O」。肥前石と同様に、玄武岩の晶洞部に産出し、太さ約1μm、長さ2~3μmの六角柱状結晶が放射状に集合しているのが特徴の1つ(画像2)。肉眼では黄色がかった白色から黄色がかった茶色、もしくは半透明で、絹糸光沢~鈍い光沢を示す。レアアースを含むリン酸塩鉱物が玄武岩中辛発見されたのは世界で初めてである。模式地は佐賀県東松浦郡玄海町日ノ出松。

画像1。肥前石の電子顕微鏡写真

画像2。イットリウムラブドフェンの電子顕微鏡写真

岩石中のレアアース元素の分布は地球科学的にマグマの発生、分化を考える上で非常に重要とされる。玄武岩マグマを発生したマントル中のレアアース元素の存在状態は不明な点が多く、今回の新種鉱物の発見がカギになる可能性もあるとしている。

またイットリウムラブドフェンはラブドフェングループと呼ばれる仲間に属するのだが、非常に珍しい鉱物で、発見されるとしても一般的には小さな結晶で見つかるケースが多い。イットリウムラブドフェンはこれまで研究者が見逃していた可能性もあるという。世界に広く分布する類似の玄武岩から発見される可能性がある一方で、東松浦玄武岩のみから産出する可能性もあり、その点は今後の課題としている。

そして、今回の発見により、東松浦玄武岩中にラブドフェングループの鉱物が広く分布することが判明したことから、東松浦半島の近くにはレアアース鉱物が集まった鉱床が眠っている可能性もあるとした。