市場がなければロボットの開発もおぼつかない

そして4人目としては福島原発事故対策統合連絡本部リモートコントロール化プロジェクトチーム メンバで産業技術総合研究所 知能システム研究部門 研究部門長でもある比留川博久氏が登壇した。

原発の処理は長期戦が必須だが、そこで人間の代わりに活動するロボットも不死身かと言うと、そうではないという。タスクフォースで検討した結果では、30Svで半導体が壊れるという結論に達しており、現実的には20Svあたりが故障の目安となるという。その結果、ロボットも消耗戦を強いられることとなり、現在、原発に投入しているものは、早ければ5月中旬に壊れる計算となっており、早いうちに対応策をとらなければいけないとした。

とは言っても、人間が被曝しながら作業ということを考えれば、人体への影響を考慮しないで済むロボットに任せる方が良いわけだが、現場でリモートコントロールが行われているのは4月23日時点で瓦礫除去と原子炉建屋内の線量モニタリング程度。発電所敷地内の線量計測は人間が測定に行っているほか、注水も人間が行っているが、「注水クレーンの無人化は現在進められており、敷地内の線量計測は、慎重に扱わないといけないという話がでており、検討段階」(比留川氏)という。

原発復旧作業のリモートコントロール化の現状と敷地内での線量計測の状況

ちなみに瓦礫や障害物の撤去に関しては、敷地内の光ファイバの敷設工事が終わったことから、今後は数キロ先から作業できるようになるという。また、リモートコントロールのためのコンソールは日米ともにほぼ同じだという。

また、Packbotが原子炉建屋内に入ったが、「聞くところによるとスリーマイルは原子炉建屋に入るのに2年、ロボット投入に4年かかった。今回、1カ月で入ってることを考えれば、だいぶ早く動けるようになったのではないか」とするも、今後のさらなるロボットの建屋内への投入については、「大型機材を入れるための大きな入り口などもあるが、そこを不用意に開けると中の放射線物質が外に出たりするので、色々対策をしないといけない。東電で検討して、PTでもさらに検討をする必要があり、また、そこに現場のニーズがあるかないかを確認する必要もある」と慎重な姿勢を見せる。

そうした状況を鑑み、同氏は個人的な意見としながらも、「放射線下で稼働実績のある製品をまずは使う。なければ、実際に稼働実績のある製品を使う。国内での実績だと、災害復旧という需要があるので製品があるが線量モニタリングは需要がないため市場がない。一方、建機の"Brokk"などはチェルノブイリとかでも使われているという」とどういったロボットを投入していくかの方針を示した。

復旧作業リモートコントロール化の検討手順と適用機材の選定における考え方

ただし、同氏は今後の方向性について、「どうなっていくかは誰にも分からない。今、建屋の調査を行っているが、この先はどうするのか。瓦礫の上をQuinceで走っていくのか、1号機では内部の放射線物質を取り除いてから入っていくのか、そうした方向性は現場が判断していかないといけないので、この先どうするのかをこの場で聞かれても分からないというのが本音。建屋の2階以降へ行くかどうかもPTで今後決めていくが、冷却系の復旧作業などの無人化なども考えていかなければいけない」とする。

リモートコントロール化の今後の展望と今後の災害救助・復旧ロボットの実用化に向けて必要となる取り組み

また、今回のシンポジウムではパネルディスカッションも開催され、会場やTwitterからさまざまな質問が飛んだ。また、中村氏を含めた講演者らのほか、IRSが編成するレスキューチーム「インターナショナル・レスキュー・システム・ユニット(IRS-U)」の真壁賢一隊長(神奈川県在籍消防隊員)なども会場に来ており、消防の立場から、「日本はロボットというと、すぐに人型がイメージされ、レスキューロボットという認識が薄く、またIRSなども広報活動が少ない。今後、一般市民にそういったものがある、ということを、タスクフォースなどで検討していってもらいたい」とレスキューロボットを今後の活躍させるためには一般への認知度向上が重要と指摘した。

しかし、その一方で、「ロボットビジネス推進協議会などが活動しており、産業用ロボットでは7割の世界シェアを獲得し、国を挙げて資格とか試験場とか作ってやってきた。しかし、今回の震災に関しては、最終的にレスキューロボットを買う人や企業がいなかった。災害復旧に関しては消防だが、消防にはそんなに予算があるわけではない。また、原発であっても、そうしたロボットを電力会社は買わない。今後は、施工計画と一体化した機材の開発と、法令化による設置の義務化までやらないと、活用は進まないであろうと考えている」(比留川氏)とするほか、「市場があればロボットは作れる。米国であれば軍が、欧州では電力会社などが所有することが法制化されている。しかし日本では誰も買ってくれない。市場ができなければ、売れないから、誰もやらない。今後はどういった方針が良いかは別として、とにかく持たないといけないというコンセンサスを社会の流れとして作っていく必要がある」(同)との見方を示し、中村氏も「ドイツでは原子力開発では多くのモジュールに対し、状況に応じたロボットを各所が開発し、オンライン上で研究者などが仕様書を定義、その仕様書に興味を持つ企業が開発する体制ができており、日本でもそうした多くの研究者が参加できる仕様書作りなどを進める必要がある」と指摘した。

パネルディスカッションの様子

また、最後に中村氏は「日本のロボットが世界トップかどうかは分からないが、少なくとも3位以内には入れる。しかし、産業ロボット以降、新規分野でのロボット市場が確立されていない。市場や経済状況など、さまざまな問題があるかもしれない。確かにフランスやドイツなどで原子力関連ロボットは進んでおり、エンターテイメントロボットも似たような状況になりつつある。もし、先述した仕様書などを多くの技術者が集まって作れたら、大きな市場を形成する足がかりになるのではないか」と、今後のロボット市場の方向性の1つを示したほか、「軍事用ロボットと災害用ロボットは似ているが、軍事用は国際法上、倫理的にも議論になる。東京大学では軍事技術は扱わない。今回のような災害で消防などと連携を模索する場合、防衛という分野とは別に、災害対策分野、という新分野を立ち上げる必要性がある。タスクフォースでその先鞭を付けられることを目指す」と、あくまでロボットの平和利用にこだわっていく姿勢を示した。