対災害ロボティクス・タスクフォース(The Robotics Task Force for Anti-Disaster:ROBOTAD)は2011年5月2日、東京大学弥生講堂一条ホールにおいて、公開シンポジウム「震災復興にむけて ロボット技術のいま」を開催し、3月11日に発生した東北地方太平洋沖地震(東日本大震災)でのロボットの活用状況の報告などを4人の講演者が語った。

ROBOTADは、今回の震災ならびに福島原子力災害からの復旧・復興に向け、ロボット技術を有効に利用するための技術上の問題、適用と運用の方策などについて情報交換、意見交換するために日本のロボット技術関連に携わる有志などにより3月31日に結成された組織で、日本のロボット技術関連の各種学術団体や日本学術会議、産業界などと広く連携する超学会組織として活動が進められている。

東日本大震災でロボット技術者たちはどう行動したのか

今回のシンポジウムの趣旨について、ROBOTADアンカーマンで東京大学 大学院情報理工学系研究科の中村仁彦教授は「地震と津波の災害、その後の福島第一原子力発電所(原発)の事故に対して、ロボット技術とロボット研究者、技術者はどう行動したのか、その中で見えてきた課題とは何か、これらについてロボット研究者、技術者が自ら問う。またこれまでに見えてきた技術的な情報を紹介し共有することを目的に、今後のロボット技術の取り組み方について意見交換を行う」と説明する。

ROBOTADは個人的な研究者たちの集まりだが、さまざまな被災現場でのロボット活用の検討を行っているほか、4月6日からは、政府と東京電力(東電)による原発災害対策プロジェクトチーム(PT)6つの中のリモートコントロール化PTへの参加も果たしている。

ROBOTADの位置づけ

1人目の講演者は、ROBOTAD チェアマンで福島原発事故対策統合本部リモートコントロール化プロジェクトチーム メンバでもある東京大学 大学院工学系研究科の淺間一教授。

東電からは原発事故の収束に向けたロードマップが発表されているが、この後、中期的な課題や長期的な廃炉に向けた課題がでてくる。その多くのプロセスにおいて、人が各種の建屋内に入って長時間作業するのは厳しく、その代わりとしてロボットが内部に入り、安全に作業を進めることが求められている。こうした条件下において、すでにいくつかの成果は東電からも発表されている。最初に発表されたのは、大成建設や鹿島建設、清水建設らのジョイントベンチャーによる無人化施工機械の投入。「無人化という点で米国のものばかり取り上げられている感があるが、日本の方が先で、今も10台程度の機械が動いている」(淺間氏)とする。無人化施工機械の活躍の場は原発敷地内の屋外。津波や爆発などによるさまざまな瓦礫があり、中には放射線量の高いものもあり、現場げの作業の妨げとなっていることから、これらをアイアンフォークで取り、ダンプで運ぶという作業を行っている。また、4月10日以降には、米Honeywellの小型無人ヘリ「T-Hawk」が活用され、建屋壁面などの状況確認が行われている。

東京電力によるロードマップと福島第一原発の6つの特別プロジェクトチーム

原発に導入されている無人化施行機械の様子

T-Hawkによる建屋撮影の様子

「こうした作業は、現場の状況が分からなければ、次に何をするべきなのかを決められない。現場に行って、状況を確認して、何を行うかを決める。この繰り返し」(同)とするが、4月17日よりiRobot製の「Packbot」が、原子炉建屋内に投入された。タービン建屋内から原子炉建屋内に投入し、情報収集を実施。これまで内部の様子が分からなかったが、Packbotによりある程度の状況把握ができるようになった。

Packbotによる原発建屋内の様子

Packbotの投入により、1号機でも瓦礫があったり、3号機では鉄筋なども散乱しており、走破性の高いロボットでないと難しい。また、2号炉は爆発していないので、湿度が高いという課題が判明したわけだが、最初にロボットを投入することで、最終的に人間が入れるようにするにはどうするべきかを理解できるようになった。「考慮すべき点は、ロボットは放射線被爆にどれくらい耐えられるか。シールドの必要はあるのか。鉛でシールドすると重くなる。また、無線の場合は通信距離や速度、他のシステムとの混信、有線でも光ケーブルの頑強性、バッテリを用いているのであれば、その交換の仕方、瓦礫の走破性、今回Packbotは2重扉を開けて入ったが、そういったマニピュレーション、マッピング、ヒューマンインタフェースによる操作性の確保、情報収集のための計測方法、操作者の訓練などをタスクフォースで議論している」(同)という。

今後、原発向けに導入が予想されるロボット

今までもさまざまなロボットが投入されたし、今後もいくつかのロボットが投入される可能性が高く、「日本のロボット投入数は少ないように思われているが、使えるものは色々ある。使えるものを使って、事態の打開をしないといけないので、随時用いられていくと考えている」(同)と、今後も現地でロボットが活用される可能性があることを強調した。ただし、「安易に投入すると、実際の現場で動かなくなる可能性があり、単なる邪魔ものになる可能性があるので、慎重に準備を行っていく必要がある。ロボットに何をやらせるか、環境の調査、どのロボットを投入するか、改良をどうするか、事前に計画を立てて投入する必要がある。また、被爆量や放射線量の少ないところからの投入する必要があるほか、周波数などの検討も必要だ」と、現場で邪魔者にならずに活用するために検討しなければいけないことが沢山あるとした。

日本でも過去から原子力関連向けロボットの開発は行われてきたが、多くがメンテナンス専用機であり、災害対策のさまざまな状況に対応できる汎用性は持ち合わせていない。また、汎用ロボットも開発されたが、維持・運用するための費用がなかったために、すでに廃棄されている