産業技術総合研究所および田中化学研究所の研究チームは8月17日、Feを用いた2種類のリチウムイオン2次電池用Coフリー酸化物正極材料(Li1+x(Fe0.2Ni0.4Mn0.4)1-xO2とLi1+x(Fe0.2Ni0.2Mn0.6)1-xO2)を開発したことを発表した。

これまで、産総研が開発してきた酸化物正極材料はFe、Mn、Tiなどを用いているが、素材コストや資源の豊富さの点から有利であるものの、平均放電電圧が3.0Vと、既存の正極材料であるLiNi1/3Mn1/3Co1/3O2やLiNi1/2Mn1/2O2の平均放電電圧4.0Vと比べて差が大きいのが課題となっていた。今回の研究では、平均放電電圧向上のためにNiを、鉄含有マンガン酸リチウム(Li2MnO3)系に導入。Ni量は全遷移金属あたり40%以下になるように、またFeを全遷移金属量あたり20%以上含むように、以下の2種の正極材料が作製された。

  • 材料A:Li1+x(Fe0.2Ni0.2Mn0.6)1-xO2(0 < x < 1/3)
  • 材料B:Li1+x(Fe0.2Ni0.4Mn0.4)1-xO2(0 < x < 1/3)

材料Aは、これまで産総研で開発してきた鉄含有Li2MnO3系(Li1+x(FeyMn1-y)1-xO2固溶体(0 < x < 1/3、0 < y < 1)に、Feだけではなく、FeとNiを1:1の割合でLi2MnO3に対する電気化学的活性化元素として導入したもの。一方の材料Bは、母体となる正極材料を3V級のLi2MnO3から4V級のLiNi1/2Mn1/2O2に変更してFeを導入したもの。

今回開発された正極材料(赤および青)と以前に産総研が開発した正極材料(黒)の5V充電後の初期放電曲線

正極材料の製造は産総研が開発した共沈-水熱-焼成法をベースに採用したもので、これにより、遷移金属イオンの均一な分布を確保しつつ、低い温度での焼成が可能となり、Feの活用が可能になったという。特に、共沈工程での酸化工程の改良および水熱処理時間の長時間化により、均質な試料を形成。これにより、材料A、Bともに既存の4V級正極材料と同様の層状岩塩型Li2MnO3構造をとることが可能になったとする。

いずれの材料も充放電特性を調べた結果、4V級の既存正極と同程度の性能を達成したほか、放電電圧も従来開発品に比べ0.7V高いことが確認され、20サイクル経過後の充放電曲線の形状も相似形を維持、材料Aで初期放電容量の76%、材料Bで同65%を維持していることから、産総研では車載用のリチウムイオン2次電池の正極として適用できるのではないかとしている。

材料AおよびBの充放電特性データと既存正極および従来開発品との比較

産総研では、Niを含むことで低コスト化の阻害要因になる可能性があるとしているが、既存正極に比べ同程度で、かつCoを不要とし、安価なFeに置き換えることが可能なため、既存正極の代替材料となる可能性があるとしており、4V級の既存正極から今回開発した3.5~3.7V級に代替することで、正極材料の低コスト化、省資源化を図りつつ、従来開発品に比較して鉄を含む酸化物正極の早期の実用化が期待できるとする。

今回開発された正極材料の初期放電平均電圧と全遷移金属量に占めるFe、MnおよびTi量の割合の関係と2種の既存正極材料および産総研の従来開発品となる3種の正極材料との比較

そのため、今後は安定した試料作製を可能とすることで、2010年の早い時期に電池メーカーなど産業界へのサンプル提供を計画するほか、さらにFe含有量の多い試料でも良好な充放電特性を得るための研究開発を進めていくとしている。