産業技術総合研究所(産総研)ダイヤモンド研究センターは、質量の異なる12Cと13Cの同位体炭素を用いてナノサイズの積層薄膜ダイヤモンドの気相合成に成功したことを発表した。また、同ダイヤモンドで、電子ならびにホールの閉じ込めに単独(ホモ)材料として成功したことを明らかにした。

同研究では、マイクロ波プラズマCVDを用いた気相成長でダイヤモンドを合成する手法を採用。原料ガスとしては、CH4およびH2を使用したが、このCH4を同位体の12Cだけでできた12CH4を原料とすると、12Cだけでできたダイヤモンドが製膜でき、13Cだけでできた13CH4を原料とすると、13Cだけでできたダイヤモンドが成膜できることから、これらを厚み30nmの薄膜として、交互に25層積層し、超格子構造を作製した。組成分析を行った結果は、12Cダイヤモンドと13Cダイヤモンドの分布が、明瞭に積層していることが示された。

マイクロ波プラズマCVD装置内で気相合成中のダイヤモンドと合成後のイメージ図

作製した薄膜構造と深さ方向に対する組成分析

この積層構造試料に電子線を照射し、試料内に電子・ホールを発生させ、再結合を測定すると、12Cの層のみ再結合が発生、電子・ホールが閉じ込められていることが確認された。一方、1層のみ積層したものでは12Cおよび13Cのダイヤモンド層両方で再結合が確認されたことから、2つのダイヤモンド層のエネルギーバンドギャップ差(約20meV)が、電子・ホールが13Cダイヤモンドからエネルギーの低い12Cダイヤモンドに移動、ホモ接合(同種材料)でありながら、従来は化合物半導体(ヘテロ接合)による超格子でしかできなかった電子・ホールの閉じ込めが行われていることが示された。

電子線照射による電子・ホール再結合測定結果

電子・ホール閉じ込めのイメージ図

産総研では、ホモ材料の同位体で、材料固有の電子やホールが持つエネルギー状態や分布を操作できる半導体バンド工学を用いた構造設計が可能になったことで、超高速デバイス、量子機能デバイスへ向けた有効な手段が得られたことになり、ダイヤモンド半導体の応用展開を加速させるものとしている。

なお、デバイスの応用には、さらなる材料の高品質化が不可欠であり、欠陥の低減、大口径ウェハ上のエピタキシャル膜成長、電子・ホール制御などに取り組んでいくとしているほか、同位体内での電子・ホール寿命評価、ホモ接合界面での再結合、電子・ホール移動度などを調べ、量子機能デバイスの設計に生かせるか否かの検討を進め、13C量子ビット形成技術などへの横展開を進め、基盤技術の確立を目指すとしている。