「いまは(会計ソフトの)市場を拡げる時期。そのためにはセミナーやイベントも積極的に行っていきたい。弥生だけではなく、競合他社とも協力できることを考えている」

--今年4月に社長に就任されてから、半年以上が経過しました。就任会見では、「中小企業、個人事業主、起業家の事業インフラになることを目指す」と宣言しました。成果はどうですか。

新製品の投入まで限られた時間ではありましたが、予想以上にいろいろなことができたという気持ちはあります。製品の完成度、品質、そして、使っていただくための仕掛けという点では、ほぼ想定していたものができたのではないでしょうか。私自身が弥生のユーザーだったわけですし、起業家であり、個人事業主という経験もある。そうした経験が、社内や新製品になんらかの影響を及ぼしたはずです。

もともと弥生は、ひと握りのスーパーエンジニアによって開発された製品ですが、現在ではチームとしての開発体制となっている。私は、チームでの開発体制を意識的にさらに加速させた。先日も開発チームと、オフサイトでのミーティングを開いたのですが、昼間はみんなでバーベキューをやりながら意見交換をしました。この半年で、開発チームにはより一体感が出てきたと思っています。

--人事パッケージの販売を休止しましたね。

この判断は苦しかった。利用していただているユーザーには大変ご迷惑をおかけしました。しかし、弥生が、どのユーザーをコアにするのか、どこにリソースを集中するか、という観点からは、この判断を下すしかなかった。パートナー各社からは、正しい判断だったという評価をいただいています。

--10月から新年度が始まっていますが、この上期(2008年10月 - 2009年3月)の重点ポイントはなんですか。

これまで準備してきたことをきちっと実践していくことです。また、福利厚生サービス、一般仕訳相談サービスも上期中に立ち上げ、お客様から、期待以上のサービスだったといわれるような実績を作りたい。さらに下期は、2010年度に向けた助走となるような取り組みをしたい。

私は、2010年度には改めてニーズを掘り起こし、市場を広げることに取り組みたいと思っているんです。PC用会計ソフトはまだ難しいと思っている人が多い。しかし、以前のように、「PCを使えないから会計ソフトは使えない」という人は減ってきていると思います。ですから、ソフトをもっと簡単にすればいい。自計化の一番のメリットは、自分の会社の利益やキュッシャフローを把握できることです。わかりやすくいえば、自分の車が、いまどの地点にいて、どの速度で走っていて、あとどれぐらいガソリンが残っているのかを、常に把握できる点です。スピードメーターと燃料計がない車なんて、怖くて運転できないですよね。経営のための必要となる指標を、簡単に導き出せれば、自計化する経営者が増加する。会計ソフトは難しいのではないか、という心理的なバリアを取り除く活動をやっていきたいと考えています。下期はそのための準備となります。

--課題をあげるとすれば何ですか。

もっとユーザーを理解することではないでしょうか。パッケージソフトで長年の実績を持っていることは、油断すればメーカーのひとりよがりに陥りやすいともいえる。いま一度、原点に戻って、ユーザーとの会話を増やしたい。まだ、決定事項ではないのですが、開発者をユーザーのもとに一定期間置いていただくこともやりたいと思っています。私は、野村総研にエンジニアとして入社したときに、野村証券に1カ月間、トレーニングに出された経験がある。(顧客の現場に)べったりくっつくと、なにが問題になっているのか、何をしなくていけないのかがわかる。いまでも貴重な経験だったと思っています。もちろん、お客様インタビューは相当数行い、製品の改善に役立てています。しかし、インタビューを受けていただくお客様は、どちらかというと好意的なユーザーですし、数時間のインタビューでは核心までわかるはずがない。だが、1カ月以上一緒にいると、自ずと厳しい意見も聞かざるを得なくなる。そこまで踏み込んだ顧客起点のモノづくりをしたいと考えています。これも、次のステップに弥生を進化させるための取り組みだと考えています。

社長就任後、初の製品リリースを迎える岡本社長。「まずは使ってみて、使い勝手の良さを実感してほしい」