秋葉原駅(東京都)とつくば駅(茨城県)を結ぶつくばエクスプレスが、8月24日に開業10周年を迎える。近年の東京近郊の新規鉄道路線としては珍しく、他の路線と直通運転を行っていない。郊外の沿線人口も増えていて、地下鉄路線と直通すれば便利そうだけど、じつは開業当初から東京駅への延伸計画がある。というより、もともと東京駅が起点になるはずだった。
つくばエクスプレスの当初の目的は2つあった。ひとつはJR常磐線の混雑解消だ。東京周辺のベッドタウン開発により、常磐線の乗客が増えた。しかし常磐線は通勤路線であると同時に水戸・日立・仙台方面への長距離輸送も担った。通勤列車を増やすため、取手駅まで各駅停車用の線路を作り、複々線化された。都心側は地下鉄千代田線と相互直通運転を行う。
ところが、宅地開発の郊外化が進んだことで取手駅以遠の通勤客も増えた。そこで「第二常磐線」(常磐新線)の計画が作られた。これが現在のつくばエクスプレスだ。
もうひとつの目的は沿線開発だった。茨城県南西部と千葉県北東部のそれぞれにニュータウン計画があり、つくばには首都機能の一部移転計画もあった。現在の筑波研究学園都市で、そのお披露目がつくば科学万博だった。首都機能を移転するからには、東京と直結する高速鉄道が必要になった。
首都機能移転計画のあるつくばと首都東京の直結が目的としてあるのだから、東京駅を起点とする計画になるのは当然のことだった。それが秋葉原駅起点となった理由は、秋葉原~東京間の建設費が約1,000億円もかかると見積もられたからだ。
常磐新線の計画では、用地買収の手間を省くため、都市部のほとんどが地下区間となっていた。路線全体の建設費がかさむ一方、沿線は未開発の土地ばかり。千葉ニュータウンの不振もあって、収支計画に批判的な声が多かった。当初、常磐新線を運行する予定だった国鉄も、自社の巨額な赤字が問題となっており、常磐新線どころではなかった。
国鉄が分割民営化され、この地域を引き継いだJR東日本も、常磐新線に対して前向きではなかったようだ。こうした経緯もあって、常磐新線は沿線自治体が株主となる第3セクター鉄道として運行されることになった。早期開業を望む株主の要請もあり、東京~秋葉原間の建設は見送り、秋葉原駅が暫定的な起点となって2005年に開業した。
東京都が交通政策審議会へ提示
収支が懸念されたつくばエクスプレスは順調に営業成績を伸ばし、車両の増備や列車の増発が行われている。沿線開発が順調に進み、高速な運行によって他の路線からの移行客も増えたためだ。開業4年目で営業利益は黒字化、5年目で経常損益も黒字、2014年度は34億円超の黒字となった。JR東日本はちょっと悔しく思っているかもしれない。
つくばエクスプレス沿線の千葉県流山市、茨城県守谷市など沿線自治体は、東京駅延伸に向けての取組みを実施している。沿線ではないものの、千葉県野田市もつくばエクスプレス延伸への関心が高い。野田市は地下鉄8号線(有楽町線)の延伸を希望しているけれど、その経由地としてつくばエクスプレス八潮駅がある。地下鉄8号線の延伸により、野田市にとっては都内の豊洲・臨海地域や有楽町方面の他に、八潮駅乗換えで東京駅方面にもアクセスできる。
流山市がウェブサイトで公開している資料)によると、つくばエクスプレスの東京駅の位置は、「東京駅直下」「丸の内側」「八重洲側」の3つが検討されていたという。このうち「東京駅直下」案は既存施設との兼ね合いから建設費が膨大で、早々に候補から外れた。現在、最も有力な位置は「丸の内側」で、丸の内ビルディング・新丸の内ビルディングの皇居側の道路(仲通り)地下、東京メトロ丸ノ内線東京駅と都営地下鉄三田線大手町駅に挟まれた位置とされている。ここにつくばエクスプレスの駅ができると、JR線や地下鉄各路線への乗換えが便利になる。
2015年7月、東京都は「広域交通ネットワーク計画について - 交通政策審議会に向けた検討のまとめ」を発表した。提案した路線が国土交通省の交通政策審議会の答申に盛り込まれると、開業までの道筋を作りやすくなる。その東京都の提案路線のひとつに、つくばエクスプレスの東京駅延伸が「整備について検討すべき路線」として盛り込まれた。
東京都が提案している都心直結線の東京駅と一体的に整備して、費用を節約しようという構想もあるそうだ。都心直結線は都営浅草線のバイパス路線で、成田空港・羽田空港と東京駅を結ぶ計画である。つくばエクスプレス沿線はますます便利になりそうだ。
東京~秋葉原間の工期は6年と見積もられていた。いまから着工したとしても、開業は2021年以降。2020年東京オリンピックには間に合わないけれど、つくばエクスプレスにとってようやく計画通りの路線が完成するかもしれない。