2015年春に北陸新幹線が到達する金沢駅。ここに「金沢駅前交差点」はない。東口にある交差点は「金沢駅前中央交差点」で、西口にある交差点は「広岡交差点」だ。しかし、「金沢駅前交差点」は確かに存在する。どこにあるかというと、なんと新潟県。それも佐渡島にある。そこから南へ5kmほどの地点に、「畑野駅前」交差点もある。

佐渡島。矢印のあたりに「駅前」がある

佐渡鉄道の想定ルート(筆者推定)

佐渡島に鉄道路線はないから、「金沢駅前」交差点のそばに線路はない。「畑野駅前」交差点のそばにも線路がない。じつは、佐渡島には島を横断する鉄道路線の計画があったという。この計画の名残が、「駅前」という地名として残されているらしい。

鉄道の代わりにバスの「駅」があった

この鉄道路線計画は、1922(大正11)年に制定された「鉄道敷設法」において、別表第56号に、「佐渡国夷ヨリ河原田ヲ経テ相川ニ至ル鉄道」と記載されていた。現在の佐渡市両津から河原田を経て相川に至る路線だ。

国立国会図書館デジタルコレクションの官報1926年5月5日付によると、この計画にもとづいて、長岡鉄道が1926(大正15)年5月1日に免許の交付を受けている。距離は13マイル70チェーン(約22.5km)、建設費は90万円だった。ただし、4年後の官報1930(昭和5)年4月15日付によると、長岡鉄道は指定の期限までに着工できなかったとして、免許を失効している。

残念ながら鉄道は開通されなかったけれど、この鉄道予定ルートは路線バスが走っている。バスを運行する新潟交通佐渡は、バスターミナルを「駅」と呼んでいたという。この「駅」の呼称もいまは取りやめになっている。「金沢駅前」「畑野駅前」という交差点名は、バスの「駅」の名残。ただしその由来は佐渡島に計画された鉄道路線だった。

この鉄道計画によると、「金沢駅前」交差点は「金井」の近くだ。「畑野駅前」は通らない。この「畑野駅前」を通る鉄道ルートも明治時代に鉄道省へ申請されたけど、あっさり却下されたそうだ。

佐渡島の面積は855.26平方メートルで、東京23区(島を除く)の622.99平方メートルよりも広く、山手線がすっぽり入る。そう考えると鉄道路線があっても良さそうだし、いまからでも観光鉄道を作ったら楽しそうだ。ちなみに佐渡島といえば佐渡金山。そこにはかつて鉱山鉄道があり、トロッコと蓄電池式機関車が活躍していた。その遺稿は「佐渡金山史跡」に残されているという。