大都市の電車は路線ごとに統一された色が採用されている。鉄道会社や路線の個性を示すだけでなく、乗り間違いを防ぐという実用的な役割もある。路線図やホームの案内板にも共通の色が用いられ、ラインカラーと呼ばれている。最近はステンレスやアルミの地色を生かした無塗装車が増えているけれど、ラインカラーがあったほうが便利だから、塗装の代わりにカッティングシートなどで帯色を付けている。

山手線のラインカラーは「ウグイス色」と呼ばれる

JR東日本の東京近郊の路線では、山手線が黄緑、京浜東北線が青、中央線快速が橙、中央・総武線各駅停車が黄、常磐線が緑だ。これらの色は国鉄時代の指定色で、「黄緑6号」「青22号」「朱色1号」「黄5号」「青緑1号」が正式名称だ。ただし、これは一般になじみのない用語だから、それぞれの色に愛称が与えられた。山手線は「ウグイス」、京浜東北線は「スカイブルー」、中央線快速は「オレンジバーミリオン」、中央・総武線各駅停車が「カナリアイエロー」、常磐線が「エメラルドグリーン」となっている。

この中で、山手線だけが仲間外れだ。トンチ問題のようだけど、他の愛称には英語の色の名前が入っているのに、山手線だけは鳥の名前そのものである。中央・総武線の「カナリアイエロー」にならって、「ウグイスグリーン」にしても良さそうなものだ。なんとなくバランスが悪いから、「ウグイス色」などと、漢字の「色」を付けることもある。

この「ウグイス色」も、正しくはウグイスの色ではない。ウグイスという鳥には、このような明るい黄緑色の体色はない。ただし、これは当時の国鉄が悪かったわけではない。黄緑色を「ウグイス色」と呼ぶ習慣は、私たちの生活に根強いからだ。たとえば「うぐいす餅」も黄緑色のきな粉をふりかけているし、色鮮やかなグリーンピースの和名は「うぐいす豆」だ。これらも全部まとめて、本物のウグイスにはない色である。

その証拠に、Google画像検索で「ウグイス」を調べてみよう。

ズラリと並んだウグイスたち。意外と地味な色だった

では、私たちが「ウグイス色」と呼んでいる色の由来は何か? じつは、鳥の仲間ではあるけれど、「ウグイス」ではなく「メジロ」の色だ。それではGoogle画像検索で、「メジロ」を調べてみよう。

メジロのほうが明るい緑色。つまり黄緑。画面全体が明るくなった

私たちの文化では、いつのまにかウグイス色とメジロ色が混同されている。これには諸説あって、最も有力な説は、「ウグイスの鳴き声に似合う色の鳥がメジロだったため、メジロをウグイスだと思い込んでしまった」という。

ウグイスもメジロも春の鳥。同じ時期に同じような場所にいる。ウグイスの体色は茶色系で目立たない。一方、メジロの体色は美しく人里で目立つ。まず、「ホーホケキョ」と鳴く鳥はウグイスという認知があり、ウグイスを見つけようとしたらメジロがいたので納得してしまったといわれる。その後、花札や日本画などでもウグイスとして描かれてしまったため、「ウグイスは黄緑色の鳥」という誤解が広まった。

こうした習慣のもとで、黄緑色は「ウグイス色」となり、山手線もウグイス色と呼ばれるようになった。若草色でも良かったと思うけれど、山手線は当初、「カナリアイエロー」の電車が走っていたため、鳥の名前にそろえたかったのだろうか? 鳥のカナリアにはイエローがあるし、エメラルドも青緑色。オレンジバーミリオンの「バーミリオン」とは、硫化水銀の色(銀朱)の英語名である。スカイブルーはもちろん青空だ。

ちなみに、「ウグイス色」の語源の中には、「ウグイスのフンの色」という説もある。ウグイスは毛虫や青葉を食べるため、そのフンが黄緑色になる場合が多かったという。ウグイスのフンの酵素は衣類の染み抜きや美肌効果があり、こちらも昔から長く使われてきた。ただし、食べたものに依存するため、いつも黄緑色とは限らない。ウグイスは野鳥のため、現在は捕獲できず、ワシントン条約で輸入も禁じられている。飼育できないので確かめようがない。そもそもウグイスのフンだって、本当はメジロのフンだったかもしれない。

これからは山手線を「メジロ色」で呼ぼう! と言いたいところだけど、「ウグイス色」があまりにも浸透しているから難しいだろう。山手線には目白駅もあるし、「メジロ」を使えばさらにややこしいことになりそうだ。それなら、「ウグイスのフン色」とはっきり呼んだほうが……。