列車の混雑ぶりを示す「乗車率」「混雑率」という数値がある。ゴールデンウィークや夏休み、年末年始になると、新幹線や在来線特急列車の乗車率も報道される。定員に対して乗客が2倍だと、「乗車率200%」となる。飛行機や乗用車、高速バス、船舶の場合、定員以上になると法律違反だ。だが列車は定員を超えても法律違反にならない。なぜだろうか?

鉄道車両の定員とは?

中央・総武緩行線は2011年度、錦糸町~両国間で混雑率201%を記録

その理由は、「定員」の定義が違うからだといえる。飛行機や船舶、高速バス、乗用車の「定員」については、法律上の「保安定員」であり、「これ以上乗ったら危険」という意味がある。安全のため、保安定員を超えてはならないと決められている。

鉄道車両の場合、「サービス定員」を「定員」としている。「サービス定員」とは、通常の運行に支障がない乗客数という意味だ。鉄道の定員を扱う法律では、この「サービス定員」を超えても罰則はない。鉄道システムの安全性を考慮したからだろう。

飛行機や高速バス、乗用車では、座席数がそのまま定員となる。新幹線や在来線特急列車も座席数が定員だ。ロングシートの通勤電車だと、座席数は1両あたり数十人程度だが、通勤電車の定員は140人前後で、数が合わない。なぜかというと、鉄道車両の場合は立っている人も座席として数えるから。これを「立席」という。

「立席」は国土交通省の省令で定義されている。「鉄道に関する技術上の基準を定める省令」の第73条の5によると「座席および立席は、列車の動揺を考慮し、旅客の安全を確保することができること」となっている。座席は座って固定されることで安全を確保される。立席にとって、「列車の動揺を考慮し、旅客の安全を確保する」とは、具体的には「つり革、手すりその他旅客の安全を確保する設備」と解釈されている。これは同省令に引き継がれる形で廃止された「普通鉄道構造規則」197条にあった内容だ。

立席について簡単に言い表すと、「なにかにつかまっていられる場所」となる。吊り革の下、ドア付近の手すり、クロスシートの場合は座席の背もたれに付いた取っ手の数が立席にカウントされ、それが定員に反映されている。座席と立席を合わせた数が「サービス定員」というわけだ。「普通鉄道構造規則」では「旅客定員」と明記されていたけれど、この規則が廃止されたため、現在は「サービス定員」と呼ばれている。

「混雑率200%」とはどんな状態か?

「普通鉄道構造規則」では、旅客定員は車両に表記することが定められていた。現在の省令では義務づけられていないが、旧制度の名残で、車両の定員数は連結面などに表記されている。山手線のE231系の場合、先頭車143人、中間車162人だ。

山手線の車両1両あたりの定員は143~162人

この車両で「乗車率200%」というと、先頭車286人、中間車324人となる。このうち約半数が、「列車の動揺を考慮し、旅客の安全を確保すること」ができない状態となっている。

国土交通省は「乗車率」ではなく「混雑率」という言葉を使い、「混雑率200%」は、「体が触れ合い、相当な圧迫感がある。しかし、週刊誌ならなんとか読める」と説明している。電車の壁に手をついたり、背伸びして吊り革を固定する棒をつかんんだり、誰かに寄りかかったりできる状態である。

混雑率の目安については、国交省サイト内でも示されている。いまの時代、混雑率220%あたりで、「体が触れ合い、相当な圧迫感がある。しかし、携帯電話やスマートフォンの操作はできる」と追加してもいいかもしれない。

かつては乗車率300%超の列車もあったとされ、駅に到着しても乗客に圧迫されてドアが開かない、窓ガラスが割れる、という事例も。「通勤地獄」という言葉も生まれたほどだという。これをきっかけに、国土交通省も鉄道各社局も、乗車率を下げる施策を実施している。国交省が2012年10月に発表したデータによると、東京圏の平均混雑率は164%、大阪圏は同123%、名古屋圏は同127%となった。もっとも、この数値は「平均」だ。路線ごとのデータも平均なので、列車や車両の位置によっては200%を超える場合もあるだろう。

国土交通省は2015年までに、三大都市圏の平均混雑率を150%とするのを目標としている。大阪圏と名古屋圏では達成済みだが、東京圏については、「主要区間の平均混雑率を全体として150%以内とするとともに、すべての区間の混雑率を180%以内とする」としている。乗車率200%以上のつらさから開放される日も近いかもしれない。

混雑率の目安

混雑率100% 定員乗車。座席につくか、吊り革につかまるか、ドア付近の柱につかまることができる
混雑率150% 肩が触れ合う程度で、新聞は楽に読める
混雑率180% 体が触れ合うが、新聞は読める
混雑率200% 体が触れ合い、相当な圧迫感がある。しかし週刊誌程度なら何とか読める
混雑率250% 電車が揺れるたびに、体が斜めになって身動きできない。手も動かせない