青い海と団地
夏だ! 海だ! 団地や工場を見に行く以外は基本的に部屋でちんまりしているぼくだが、夏なんだし海に行くぞ! ということで、行きました。海沿いにある団地に。
ぼくの今年の夏の思い出はかもめ団地の風景ということになりそうです。
すてき。この得難いロケーション団地は、やはりぼく以外の人間の心も捕らえるようで、GOING UNDER GROUNDの『初恋』という曲のPVにこの団地が登場する。堀北真希さんをフィーチャーしたこの映像で、1分26秒あたりに上の写真と同じように団地を見下ろす向こうに水平線が見える、という場面がある。
同じ場所で同じ構図で撮ってみました。堀北真希きどりです。 |
きけばGOING UNDER GROUNDのみなさんは埼玉県桶川市の出身だそうだ。海のない埼玉の方々のあこがれがこの団地というわけか(たぶんちがう)。
東京湾岸埋め立て地団地を見てみる
さて、見事に海を向いて南向きのこの団地の敷地は埋め立て地だ。
かもめ団地の航空写真(国土地理院「地図・空中写真閲覧サービス」より・CKT20072・コース番号:C32/写真番号:17/撮影年月日・2007/04/14(平19)) |
1966年の同じ範囲の写真。まっさら。この風景見てみたかった。(国土地理院「地図・空中写真閲覧サービス」より・MKT668X・コース番号:C11/写真番号:8/撮影年月日:1966/07/29(昭41)) |
1963年はこの通り。(国土地理院「地図・空中写真閲覧サービス」より・MKT637・コース番号:C21/写真番号:15/撮影年月日:1963/04/29(昭38)) |
ちょうど半島の南端で、敷地が南面しているので敷地通りに団地を建てていったら理想的な南向き住宅になった、ということだ。
これ、こうやってみるとあたりまえのように見えるが、敷地がいつも南を向くとは限らない。ためしにほかの埋め立て地団地を見てみよう。
東京湾岸のほかの埋め立て地団地として、千葉のふたつの団地を見てみようではないか(正確性を欠いたてきとうな絵ですまん)。 |
かもめ団地とちがって、敷地が南を向いていない団地をふたつ選んだ。どちらも千葉だ。ひとつは東京ディズニーランドにほどちかい新浦安の団地。もうひとつは千葉駅も近い幸町団地だ。
東京湾の奥は北東に細長い。南を向いた海岸線がめったにない。南東向きの敷地代表が浦安で、南西向きのが幸町団地ということになる。さて、団地の向きはどのようになっているだろうか。
南面平行配置といいます
新浦安の団地を見てみよう。
新浦安の埋め立て地団地。敷地は南に対して45度振れているが、団地はいっしょうけんめい南を向こうとしている(国土地理院「地図・空中写真閲覧サービス」より・CKT20092・コース番号:C41/写真番号:24/撮影年月日:2009/04/28(平21)) |
南東に東京湾がある。見えている線路は京葉線。ご覧のように敷地に抗ってなんとかして南を向こうとしている。けなげ。
幸町団地も同様だ。
こちらも約45度傾いている。そして見事に団地は南面(国土地理院「地図・空中写真閲覧サービス」より・CKT20092・コース番号:C22/写真番号:30/撮影年月日:2009/04/23(平21)) |
南西に東京湾。見えている線路は同じく京葉線。国道14号線と鉄道に挟まれた細長い敷地の中でいっしょうけんめい南向き。どちらもまわりの工場や住宅が海岸線や線路に平行して(つまり南に対して45度傾いて)いるのと対照的だ。かわいい。
敷地通りに建てればもっと効率よく戸数も増やせるのだが、それよりも日当たりを重視した結果こうなったのだ。団地には「冬至4時間日照」という原則があった。文字通り、一番日の短い冬至の日でも、あらゆる戸に4時間は日が当たるように、というガイドラインだ。これによって棟間隔が決められ、おのずと南を向く。敷地と食い違った結果、敷地内の道にリズムがあっておもしろいことになっているのも効用のひとつだ。
切り株がなかったら団地を見よ
まわりの街並みにあえて合わせず、いっしょうけんめい南を向こうとする団地は、まるでひまわりのようだと思う。太陽を受けるためにがんばる植物のようだ。
よく森で方向を失ったら切り株の年輪を見ると方角が分かるというが、都市部では団地を見ると南が分かる。迷子になったらこの知識をぜひ活用していただきたい。
<著者プロフィール>
大山顕
1972年生まれ。フォトグラファー・ライター。主な著書に『団地の見究』『工場萌え』『ジャンクション』。一般的に「悪い景観」とされるものが好物。デイリーポータルZで隔週金曜日に連載中。へんなイベント主催多数。Twitter: @sohsai
イラスト: 安海