「事件は会議室で起きてるんじゃない! 現場で起きてるんだ!」は映画『踊る大捜査線 THE MOVIE』(東宝/1998年)での名台詞だが、この「現場」がどこか知る人はあまりいない。じつはこれ、光が丘団地なのだ。
今回はこの光が丘団地にまつわる「ミステリー」をお話ししよう。
光が丘の目抜き通りのミステリー
総面積186ha(東京ドームの約40倍)というこの巨大団地、正式には「光が丘パークタウン」という名前で、UR、公社、都営住宅、と各種取りそろえている。ここを団地にする計画はぼくが生まれた1972年に策定され、入居開始はその約10年後の83年。団地としてはかなり新しい。規模が大きいので今の姿になるまでに時間がかかっている。例えば現在の最寄り駅は都営大江戸線「光が丘駅」だが、これが開通したのは1991年だ。街ができあがるのって時間かかる。
さて、『踊る大捜査線 THE MOVIE』の他にも、劇場版アニメ『デジモンアドベンチャー』(東映/1999年)の舞台(この作品はずっと夜の光が丘団地内で物語が進む。ちょう名作)にもなるなど、映像製作の人間にとっても魅力たっぷりのこの団地。見どころはたくさんあるが、その最大の特徴はなんといっても敷地を南北に貫く目抜き通りだろう。
現在の光が丘団地の航空写真。真ん中を南北に並木と共に走っているのが目抜き通り(「地理院地図」の「写真・最新(2007年~)」より)。それにしても北半分の公園も広大だなあ。 |
前回の都営白鬚東アパートで「団地の設計とは配置である」(『いえ 団地 まち――公団住宅設計計画史』木下庸子 植田 実・ラトルズ・2014年)という名言を紹介した。団地とは建築である以上に「街」なので、道をどのようにレイアウトするかが重要なポイントになるのだ。
その点、光が丘のこのメインストリートは単純にすぎるように見えるかもしれない。しかし実際訪れてみると、その優れた機能になるほど、と頷くに違いない。広大な敷地で、かつ都道443号が貫くという条件にあって、うまいこと歩車分離がなされているが、その中核となるのがこの目抜き通りなのだ。
今回のミステリーは、この目抜き通りの正体についてだ。
3代にわたって残り続けた!
さて、この光が丘の団地ができる前、ここはなんだったのか? 見てみてびっくり。
1947年の航空写真(国土地理院「地図・空中写真閲覧サービス」より・コース番号:M636-A-No1/写真番号:180/撮影年月日:1947/11/08(昭22)) |
現在と同じように住宅地っぽいが、日本のものっぽくない棟の並び方だ。そう、これ「グラント・ハイツ」という名のアメリカ軍の宿舎だったのだ。団地の以前もいわば団地だったのだ。1945年に連合国軍によって接収され、1973年に返還されるまでこのような状態だった。"grant heights"で画像検索すると当時の街の様子を収めた写真がちらほら引っかかるので見てみて欲しい。
なんといってもポイントは南北を大きく貫く道だ。光が丘団地になる以前から目抜き通りは目抜き通りとして存在していたのだ。敷地の形状からして、真ん中にこのように道路を通すのは必然といえばそうなのだがこの一致は興味深い。
これだけでは終わらない! 「ミステリー」はここからだ。このグラント・ハイツ以前ここはなんだったのか。さらにさかのぼってさらにびっくり!
1946年作成の地図( Courtesy of the University of Texas Libraries, The University of Texas at Austin. ) |
"NARIMASU AIRPORT"の文字が見える。ここは飛行場だったのだ。この「成増飛行場」は戦時中に突貫工事で作られた日本陸軍の飛行場だった。それまで農地が広がる場所に突如現れたのがこの滑走路だ。
そしてなんと真ん中に「目抜き通り」があるではないか! 現在の光が丘団地のあの通りは以前滑走路だったのだ! 飛行場→米軍住宅→団地、と姿を変えながらも滑走路はしぶとく残り続けたのだ。
ちなみに上の地図は、テキサス大学図書館のマップコレクションから。米軍が日本の主要都市を対象に地図にしたもの。おそらく戦時中から偵察していたのではないか。そりゃあ負けるよなあ、とこれを見る度に思う。
街の構造が由来を想像させる
さきほど『デジモンアドベンチャー』の舞台がここ光が丘だと書いた。その物語中、実に意味深なシーンがある。まさにここを「滑走路」のように使うモンスターが登場するのだ。
この作品の監督の細田さんがこの街の歴史を知っていてこのようなシーンを作ったのかどうかは知らないが、もし光が丘の街を見て「飛行場みたいだなあ」と思ったのだとしたら、これはもう土地の因縁としかいいようがない。街の由来とそれによって形作られた構造が、そこを訪れた人に偶然にも出自を語らせる。そういうことってあるんだよなー。団地はとくに面積の大きい開発なので、以前の構造を受け継ぎやすい。だからぼくは惹かれるのだ。
蛇足だが、光が丘で動物といえば、ぼくもここにブタの絵を描いたことがある。「GPS地上絵師」の石川初さん設計と指導の下、GPSロガーを持って光が丘周辺の道を、ブタの絵になるように移動したログがこれだ。(「地理院地図」の「写真・最新(2007年~)」にログを加筆・北が下) |
<著者プロフィール>
大山顕
1972年生まれ。フォトグラファー・ライター。主な著書に『団地の見究』『工場萌え』『ジャンクション』。一般的に「悪い景観」とされるものが好物。デイリーポータルZで隔週金曜日に連載中。へんなイベント主催多数。Twitter: @sohsai
イラスト: 安海