いまから32年前の1979(昭和54)年9月30日、東神奈川~八王子間の横浜線、通称「ハマ線」で旧型国電73形の"サヨナラ列車"が運転されました。同電車の全車引退と同時に、ハマ線名物の珍列車・珍百景も見納めとなりました。

73形は1952年に横浜線に初めて投入され、最盛期には約90両が活躍しましたが、引退直前は約40両に。その73形と同時に引退した「珍列車」が、73形4連に連結された荷物電車、クモニ13です。なんと昭和ヒトケタ生まれ! 1933(昭和8)年に製造された17m車で、製造当初は電動制御車モハ34と名乗り、その後、複雑怪奇な改造と改番を経てクモニ13となりました。

横浜線では午後の定期列車に連結され、戦後生まれの73形にぶら下がるように東神奈川~八王子間を往復。おもに夕刊紙を運んでいたそうです。

続いてハマ線名物の「珍百景」。それは原町田駅(現・町田駅。当時の駅は現在地より南側にあった)を9時58分に同時発車する上り・下り電車と、折り返しのため停車中の電車、計3本の73形が顔を並べる"奇跡"の瞬間です。

3本が顔をそろえるには、上り電車の発車するタイミングが重要でした。原町田駅に上り・下り電車が到着したところから、写真をご覧いただきましょう。

下り電車(八王子行)は7連で、空いているので乗降はスムーズに終了。これに対して、上り電車(磯子行)は4連の上、都心方面に出かける人でほぼ満員。乗降に手間取ってしまい、時間が過ぎていきます。

この時点では、4連2本が顔を並べています。

そして発車時刻の9時58分、本来なら上り・下り同時に発車するはずが、乗降が済んだ下り列車7連のみ先に発車。その最後尾が4連2本の先頭車と同一線上に並んだ瞬間、3本の73形が顔を並べるのです。

やがて、磯子行の上り電車が遅れて発車していきます。この遅れこそ、"奇跡の3本並び"が出現する条件だったのです。

今回紹介した「鉄道懐古写真」

撮影日 説明
写真1 1979年9月30日 鴨居駅を出発するサヨナラ電車。最後尾はクモハ73
写真2 1979年9月30日 夜のサヨナラ列車(中山駅にて)。先頭はクハ79。
横浜線の旧型国電の歴史に幕
写真3 1979年8月31日 「珍列車」クモニ13をつないだ東神奈川行が
十日市場駅へ。台車からブレーキシューの鉄粉が吹き出す
写真4 1979年4月9日 荷物電車クモニ13のサイドビュー。窓やドアの内側に
ガラス破損防止の保護棒が見える。鴨居~中山間
写真5 1979年9月2日 荷物電車をつなぎ、単線時代の相原~片倉間を行く
写真6 1979年8月31日 原町田駅で折り返す電車(写真中央)を挟むように、
下りの八王子行(同左)と上りの磯子行(同右)が到着する
写真7 1979年8月31日 3本の73形が顔をそろえた"奇跡"の瞬間。左側の2本は
クモハ73近代化改造車(500番台)で、右側の電車はクハ79
※写真は当時の許可を取って撮影されたものです
松尾かずと
1962年東京都生まれ。
1985年大学卒業後、映像関連の仕事に就き現在に至る。東急目蒲線(現在の目黒線)沿線で生まれ育つ。当時走っていた緑色の旧型電車に興味を持ったのが、鉄道趣味の始まり。その後、旧型つながりで、旧型国電や旧型電機を追う"撮り鉄"に。とくに73形が大好きで、南武線や鶴見線の撮影に足しげく通った