ぜんぶモテのせいだ
人は何に笑い、何に泣き、誰のために傷ついているのか。と言ったらもう、一択しかないわけです。生きとし生ける老若男女は皆、モテに笑い、モテに泣き、モテのために傷ついています。とりあえず、その前提で話を進めていきたい。
「モテ」があるからこそ、その昔、エビのやつが「めちゃモテ」とか言い出して隙あらば巻き髪にしていたのだし、今年流行りの「ありのまま」のあいつらだって、アナはモテて、エルサはモテないからこそ、エルサが悩んだ挙げ句ありのままの姿を見せようとしたんじゃないかってところがある。
肉食だって草食だって、もっと言えばロールキャベツ男子もアスパラベーコン男子もクリーミー男子もカフェオレ男子も、その他、一過性の「○○系男子(女子)」も、そんな言い回しが生まれるのは、みんなみんな「モテ」のせい。
モテることで幸せを実感できるのか
私も、ご多分に漏れず、「モテ」を目指して日々鍛錬を重ねてきました、これでも。先日、高校時代の友達に会ったら、ナチュラルに1時間おきに別々の男性から彼女宛てに着信があり、ナチュラルに日常茶飯事と言いたげな顔をして、ナチュラルに「これでも7割は誘いを断ってる」と言い放ったときは、あれ……、なんかそういうの、今の流行りだっけ? アナとか雪とかありのままの次は、そういうの流行るんだっけ? こっちにそのブーム、一向に来る兆しないけど、って思いましたけれども。
成果物の如何はともかくとして、一応日本人として足並みそろえてきたつもり。ただ、最近気付きました。実際、そんなに「モテたい」か?と。「モテる」ことで、果たして幸せを実感できるのでしょうか?
自覚的なモテか無自覚なモテか
まず、人からの好意に"自覚的"に対応できるか、鈍感ゆえに"無自覚"になるのか、ということについて考えてみます。
これは友人A子の話。「自分はモテない」「恋愛音痴だ」と言ってはばからないA子は、客観的に見れば、実は複数の異性に言い寄られていて、「モテて」はいます。ただ、そのことにまったく気付いていない様子のA子。それどころか、「多くの異性から誘われる」ことを「女扱いされていない」とすら思っています。つまり、外から見て状況的にモテていたとしても、自分がそれに無自覚ならば、そもそも「モテた! うれしい!」という実感は味わえない。
じゃあ逆に、自覚的でありさえすれば良いのか、というと、そう単純な話でもありません。もし、自覚的だったとしたら、今度はおそらく「どうでもいい人からの言い寄られ」の予感がした時点で、面倒なことになる前にシャットダウンしてしまいます。
こちらは別の友人・B子の話。B子は、何とも思っていない人から誘われるのは苦痛に感じるため、ちょっとでも"寄ってきたかも"と感じたら、ぶっきらぼうに接します。「うっかり愛想よく対応して、興味がない人と食事に行かなきゃならないのって、時間の無駄。だから結果的に、誘い自体は少ない(笑)。アプローチされるまでに至らないから、自分は"モテない枠"に入ると思う」(B子談)。
「多くの異性から具体的な誘いなどがある」=「モテる」と定義するならば、B子の場合はバリアを張っているがゆえに、本来はおそらくモテるはずなのに、状況的にモテないみたくなっています。
モテる状況を楽しめるのは限定的
となると、「モテる」という状況を楽しめるのは実は非常に限定的で、「人からの好意に自覚的」で、なおかつ、「どうでもいい人から言い寄られることすら楽しんで手玉に取る」、というタイプの人になります。ですが、この人たちは「モテて幸せ」なのでしょうか? 「どうでもいい人からの言い寄られ」に費やしている時間の分だけ、「自分が本当に好きな人」へ割く時間は確実に減ります。
人を、すごく好き枠・そこそこ好き枠・少しだけ好き枠・普通枠・どうでもいい枠・嫌い枠、と分けたとして、注力するのは「すごく好き枠」のみか、あって「そこそこ好き枠」くらいまでにしておいたほうが、人生の時間の使い方として、効率がいいのでは?
筆者、齢20数年。これまで、「モテたい」と言い続けて生きてきたのに、ここに来て、実は「モテる=幸せ」ではないかもしれない、という啓示がおりてきてしまいました。
これからは何を支えに生きていけばいいの……? しかしです。よくよく思い起こしてみたら、「モテたいモテたい」と言いつつも、「モテる」ことについて深く考えもせず、なかば記号的に言っていたような気すらします。あのお店みんなが並んでるからー、サトウさんところのお肉屋さんいつも行列ができてるからー、並んどく? 長い物に巻かれとく? 、くらいのノリ。
「モテる」は特に目指すべきことではないと分かった今、モテないことに思い悩む全国の少年少女たちに、この説を吹聴して回りたい気持ちでいっぱいです。そしたら、ちょっとしたマザーテレサになれる、くらいに思ってる。救い主メシアとして人気者になりたい……モテたい……。(振り出しに戻る)
<著者プロフィール>
朝井麻由美
フリーのライター・編集者。主なジャンルはサブカルチャー/女子カルチャーなど。体当たり取材が得意。雑誌「ROLa」やWeb「日刊サイゾー」「マイナビニュース」などでコラム連載中。近著[構成担当]に『女子校ルール』(中経出版)。Twitter @moyomoyomoyo
題字イラスト: 野出木彩