和田岬線。その名前は、以前からなんとなく知っていました。とはいえ、「神戸市の海側に短い支線があるらしい」というくらいの知識でしたが。神戸駅のお隣、兵庫駅から出ている山陽本線の支線だそうです。

JR和田岬駅。かつて駅舎もあったが撤去された

神戸というと、全国で一番短い国道があります。これまた海に近いところの国道174号線で、ほんの200mくらいしかありません。10両編成の電車だと、最後尾の車両がホームを出る頃には、すでに先頭車両が次の駅のホームに入ってる……、そんな距離ですね。和田岬線の場合、さすがにそこまで短くはありませんが、全長2.7km。途中駅はなく、しかもほぼ駅周辺の工場に勤める人の「通勤専用路線」となっているようで、朝夕ラッシュ時のみの運行です。平日でさえ、日中はまったく運行されていません。

電車到着まで2時間! 和田岬線沿線を歩く

今回、和田岬線に乗るにあたって、少し困りました。この時期、夕方の電車はほぼ日暮れ時の運行で、和田岬線に乗っても現地はもう真っ暗。写真が撮れないのです。

神戸市営地下鉄海岸線の和田岬駅。こちらは日中約10分間隔で運転される

それで調べてみたところ、ほぼ隣に神戸市営地下鉄の和田岬駅があるとわかりました。そうか、じゃあ15時すぎに地下鉄で現地に行って、駅周辺を見て回って、17時20分すぎの和田岬線の電車で帰ってくればいいや。そう考えてさっそうと出かけたのであります。

筆者が乗った日は、十日戎の最終日、残り福の日でした。商売をしている母に、「笹を買うてこい!」と言われ、行きがけに西宮のえべっさんに寄りました。昼を少し過ぎた頃でしたが、相変わらずものすごいにぎわいです。さすがに入場制限はしてませんでしたが、入り口からお賽銭まで30分くらいかかりました。大マグロを見て、巫女さんから笹を買って、おみくじを引きます。大吉でした。なんとなく今年はいい年になりそうな気分で、阪神電車に乗り、三宮へ出ます。

ここで友人Mさんと落ち合って、地下鉄海岸線の駅に向かいます。この地下鉄は普通に車輪が付いてますが、駆動はリニアモーターで車体もやや小振りです。Mさんは筆者のバイク仲間ですが、本職は鉄道関係者でいろいろと教えてくれる、いわば「ブレーン」のようなお方です。本職だから当然、架線を「ガセン」と読みます。その日はなんと、お土産に阪急電鉄の新型車両1000系のパンフレットをいただいてしまいました(前回載せてたアレです)。

地下鉄の和田岬駅で下車し、外へ出て、いきなり途方に暮れました。駅周辺に見事に何もないのです。道路と、工場と、コンビニがぽつんとあるだけ。時刻はお昼3時すぎ。和田岬線に電車が来るのは夕方5時すぎです。それまで2時間もの間、一体何をすればいいのか?

和田岬駅付近の踏切

兵庫運河に架かる和田旋回橋

とりあえず駅の様子を撮影してから、線路沿いに兵庫駅まで沿線散歩をすることにしました。歩き始めるとほどなく踏切があります。かなり大きな踏切ですが、昼間はまったく遮断機が下りることがありません。世の中に悪名高い「開かずの踏切」というのはたくさんありますが、ここはいわば、「閉じずの踏切」ですね。

しばらく進むと、今度はいきなり大きなドームが現れました。陸上競技場です。ここですかさず、「この下は地下鉄の車庫になってるんやて」とMさん情報が。いやほんと、いい人について来てもらってよかったです。

「この先に行くと運河があって、旋回橋があるらしいよ」というMさんの言葉に従い、さらに先へ進むと、じつにいい感じに古びた橋りょうが見えてきました。真ん中の橋脚が丸くて、船が通るときにはここを中心に旋回して航路を開けるようになっていたのでしょう。いまはもう固定されていて動かないそうですが、そのたたずまいが素敵です。

運河の向こうの工場に、いま話題の新型車両が!

運河を迂回して、さらに北へ。線路沿いの工場から和田岬線に向かって、短い線路が延びています。工場をのぞいてみると、新型車両がいました。521系みたいです。製造されて間もない、生まれたての車両です。やがてここから北陸方面へ向かうのでしょう。「この線路は全国につながっているのだ」という当たり前のことに、あらためて気づかされます。

川崎重工兵庫工場のシンボル、新幹線0系と特急「こだま」

工場の中に北陸新幹線の新型車両の姿が

散歩を続けるうちに、国道2号線に突き当たってしまいました。そろそろいい時間になったので、和田岬駅へ戻ることにします。帰りは線路より少し西側の道を戻ったのですが、いきなり目の前に、あの懐かしい新幹線0系が現れたのでびっくり。隣には在来線特急列車だった頃の「こだま」もいます。久しぶりに古い友人に会ったような気分です。

工場付近で拾い物

その少し先にある工場の前を通りかかると、なんとできたての新幹線が。色から見て、北陸新幹線の新型車両のようです。すごい、初代の新幹線を見た直後に最新型の新幹線! テンション上がりまくりです。ふと、足もとを見ると、道路上になにやら部品が落ちていました。

筆者 「もしかして、E7系のカケラかも!?」

Mさん 「絶対に違う!」

こういうあたり、Mさんは現実主義の人です。

先ほどの旋回橋にさしかかったあたりで、いよいよ日が暮れてきました。そしてようやく、和田岬線の電車がやって来ました。いい雰囲気です。

辺りが暗くなった頃、和田岬線の電車が到着。103系ではなく207系だった

「まったく何もない」と思っていた和田岬線界隈でしたが、歩いてみるとじつに面白い、いい旅になりました。ほどなく駅に戻り、改札がなくなって果てしなくオープンなホームから、意外にもモダンな6両編成の電車に乗り、和田岬駅を出発。家路につきました。