【連載】

フォントから考える

1 創英角ポップ体はなぜ街に溢れるのか?

 
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デザインを語る上で重要な要素のひとつ、「フォント」。デザインを実際に手がける人だけでなく、それを見る多くの人を含め広く知られているフォントとして、以前取り上げた「MS Pゴシック」をはじめとした「MSフォントシリーズ」に匹敵すると言っても過言ではないのが、「創英角ポップ体」でしょう。

Microsft Officeに標準搭載されているという共通点をもつふたつのフォントですが、その見た目は大きく異なります。駅の構内や商店の店先など、手作りの掲示物に多く使われているため、普段このソフトを使わない人でも、見覚えがあるのでは?

そんな街中にあふれている「創英角ポップ体」は、プロのデザイナーの目から見てどう映るのでしょうか。

本連載では、「MS Pゴシック」の記事に登場していただいた、デザイナー・「Sさん」こと佐々木未来也さんに、テーマとなるフォントについて質問を投げかけていきます。今回は、街中になぜ「創英角ポップ体」が多く見られるのかについて聞いてみました。

佐々木 未来也(Mikiya SASAKI)((株)コンセント デザイナー)

慶應義塾大学大学院政策・メディア研究科修士。2013年株式会社コンセント入社。月刊雑誌、社内報、書籍などのエディトリアル/グラフィックデザインに従事。現在はWebデザイン、サービスデザインに携わるかたわら、全天球撮影部隊渡邊課にて、新しい映像表現の探求をおこなう。

――創英角ポップ体を、デザインの仕事で使うことはありますか?

実際に使ったことはないですね。スーパーの売り場などにある「POP」や小売系チラシのデザインといった、ポップ体を使いそうな仕事をいただいたことがないので、フォントの選択肢として考えたことがないです。

――では、ポップ体を用いることが考えられる類の仕事をやることになった場合、使うと思いますか?

使わないと思います。そもそも業務で使うパソコンには創英角ポップ体が入っていないのですが、入っていても、あまり考えないと思います。

創英角ポップ体は「デザイン書体」というカテゴリに含まれるフォントです。デザイン書体というものの多くは、見出しや小見出しといった大きく扱われる要素、つまり目を引く要素に対して使うために設計されたものが多く、基本的に長い文章に使うものではありません。

ゆえに創英角ポップ体も、見出しなどの大きな文字に使うのが妥当かと思いますが、大きく表示するには、ディテールの「違和感」が目立つフォントだという考えが、私の中では強いです。

――「違和感」とは?

例えば、「町の本屋さん」という文言を含むポスターを作るとします。比較のため、3種類のフォントを並べてみました。

創英角ポップ体の「屋」は、他のフォントと比べて傾きが強く感じられます。このフォントの横画は、書き始めから右に行くに従って細くなっていくのと共に、ほんのわずかに右上がりになる傾向があり、この特徴が「屋」では特にあらわれています。隣り合う「本」「さ」が水平な印象があるためその差がさらに際立ってしまい、とても気になります。

また、他のフォントと比べるとはっきりしますが、創英角ポップ体ではフォント全体での統一感が、あえて取られていません。おそらく手書き風のイメージを強くさせるための処置だと思いますが、文字ごとに、ぱっと見の濃さや文字の重心が異なっています。これは「ひらがな」や「英数字」で比べるとよく分かります。

こういった意図的なバラバラ感が“くだけた印象”をつくる一因でもあるでしょうが、創英角ポップ体は、上記の例のように特定の文字が際立ってしまう可能性が高く、扱いづらく思ってしまいます。

もちろん、ぱっと見の統一感があるフォントでも、隣り合う文字の相性や、どれくらい大きく使うかによって、文字ごとの太さや大きさに差が生じることはあります。その差が気になるレベルのとき、デザイナーは1字1字サイズや太さを調整して、見た目が揃っているようにします。

しかし、創英角ポップ体ではそれが顕著に起きやすく、視覚調整の手間もばかになりません。その手間が惜しくないほど創英角ポップ体が適している、と思える仕事であれば当然使いますが、そうでなければ、「その仕事に適した印象」と「統一感」が両立する他のフォントの中から選ぶのが自然だと思います。

創英角ポップ体とその他の書体の比較例

――デザイナーである佐々木さんにとっては利用頻度が低い創英角ポップ体ですが、商店や駅構内など、街中の掲示物には非常によく見られます。これはなぜだと思いますか?

街角や駅で見かける創英角ポップ体が使われた掲示物などは、おそらくMicrosoftのWord、Excel、Power Pointのいずれかでつくられたものと思います。広く使われているMicrosoft Officeにバンドルされているフォントで、多くの人の手の届きやすいところにあるのが大きな要因なのではないでしょうか。

また、Officeにバンドルされているフォントで、目立って太いフォントは創英角ポップ体か創英角ゴシックUBかの2択になるかと思います。その選択肢の少なさも影響しているように思えます。

――この2種類のフォントから選んでいると仮定しても、創英角ポップ体の方が圧倒的に多く採用されていると感じますが、これはどんな要因が考えられますか?

どちらの利用頻度の方が多いかは分かりませんが、もし仮に創英角ポップ体のほうが多く選ばれていると仮定すると、その理由は、太さが近い創英角ゴシックUBと比べ、ゴシック体や明朝体のような「堅さ」が少ない印象が特徴的だから……ということに加えて、「手をかけた」感が手軽に出せる、という点も関係があるかもしれません。

――「手をかけた」感について、詳しく教えてください。

「手をかけた」感というのは、見た目から得られる、なにか凝った印象のことだと思ってください。画像やイラストの追加や、文字にふちをつける、影を落とす、背景に色をいれる、テクスチャをつけてみるなど、デザインの「密度感」や「情報量」を多くしていくと、見た目の「手をかけた」感が育っていきます。

創英角ポップ体は文字の太さが変わったり、傾いたり、濁点が丸くなっていたり、角が強かったりと、要素ごとの主張が非常に強いです。それはつまり、見慣れたゴシックや明朝体とは明らかに異なるディテール、情報量を持つフォントで、ひとめで違いが分かりやすいフォントといえます。

そのため、写真を大きくしたり文字の位置を変えたりといった手間をかけなくても、デザインの「密度感」、「情報量」を簡単に変えられます。さらに印象を強くしたければ、フチをつけて袋文字にする手もありますね。以上の点から、「手をかけた」感を手軽に出しやすいフォントだといえそうです。

――そのため創英角ポップ体が選ばれる、と?

あくまで仮説ですけれど、人は「なにかをやった」感を好意的に判断しがちです。「手をかけた」ことがそのデザインにおいて適しているのかはともかく、まず「手をかけた」感自体を評価するということです。

デザイナーが仕事としてデザインを行う場合、見た目の「手をかけた」感をつくる要素がコンセプトと合っているかが重要になるため、その部分を常に考えながら作業する必要があります。

一方、そうでない方々の場合、デザインした物を構成する要素とコンセプトとの合致よりも、デザイン以外の事柄でも評価軸として使われることの多い「手をかけた」感の有無が重視されがちなのかもしれません。

架空の駅構内向け掲示物における、創英角ポップ体と似た太さのフォント(A-OTF ソフトゴシック Std DB&H)の比較

――なるほど。ですが、街中などのいわゆる「リアル世界」で創英角ポップ体がよく使われている一方、インターネット上では、このフォントを使ったデザインを「ネタ」として消費する向きもあります。

創英角ポップ体は非常にクセが強く、利用に適した領域がかなり限られた、“じゃじゃ馬”なフォントです。しかし、Microsoft Officeという広く普及したソフトに付属しているために、さまざまな人が、さまざまな目的で、さまざまな場所において使っています。

その中で、伝えたいメッセージと創英角ポップ体の佇まいが齟齬をきたしているデザインに出くわした時、「ネタ」として扱われてしまうのではないかと考えています。大飯原発の運転再開差し止め判決の速報が、創英角ポップ体でなされたという件は、そういう事例と認識しています。

今回のテーマについて調べるにあたって、リアル/ネット問わず創英角ポップ体を使われたデザインに多く触れました。違和感があるものも多くあった一方で、それほど違和感を覚えなかったものもありました。

デザインはさまざまな要素が複雑に絡む、全体論的な概念です。創英角ポップ体が使われたデザインがすべて「ネタ」になるようなものではないですが、かといって、問題はフォントではなく全て使い方次第だ、というのも、問題を矮小化した意見のように感じます。

――創英角ポップ体の「ネタ」化には、一般の人にとってフォントの選択肢が狭いことにも理由があるかと思います。このフォントの代わりに使えそうなフォントなどあれば、教えていただけませんか?

「これで代用すべき」とは、一概に言いづらいですね。まず、デザインするものや利用する場面によって、どのような印象を出したいのかによって、求められるフォントは異なってきます。

とりわけデザイン書体においては、どんなモノにも使えるフォントはおそらく存在しないでしょう。「フォントコレクション(さまざまなフォントをまとめた製品)」を購入し、そこから自分のつくりたいものに合ったものを選ぶほうが、費用はかかるものの、結局は手間のかからない方法かと思います。

なにかオススメするとすれば、ダイナフォントのコレクションは比較的“デザイン書体”の収録数が多く、また値段も安いので、良い選択肢になるはずです。また、タイプラボのフォントには無料頒布フォントがあります。漢字の収録数等の制限がありますが、本来有料のフォントを試用できるので、試しがいがあると思います。

最後に、フロップデザインのフォントは日本語かつフリーフォントが多いのが特徴ですが、商用での利用の際には、別途ライセンス契約が必要なものもあります。いずれにせよ、フォントの利用規約はフォントベンダー(フォントの販売元)ごとにそれぞれ異なるので、都度確認をし、扱いには十分気をつけていただければと思います。

次回は「見なれた」フォントについて解説

これまで「MS Pゴシック」「創英角ポップ体」と、多くの人にとって身近なフォントを取り上げてきましたが、これは多くの人が「使う」側に立ちやすいもの。普段の生活の中には、もっと多くのフォントがあり、知らず知らずの内に見ています。

次回も是非、おつきあいください。

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インデックス

連載目次
第4回 世界の“普通”をつくったHelvetica (2)
第3回 世界の“普通”をつくったHelvetica (1)
第2回 クラシカルでやさしい売れっこフォント
第1回 創英角ポップ体はなぜ街に溢れるのか?

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