【レポート】

デザイナーはなぜMS Pゴシックを使わないのか? - エディトリアルデザイナーに聞いてみた

 

デザインを語る上で重要な要素のひとつ、「フォント」。デザインを実際に手がける人だけでなく、それを見る多くの人にとってなじみ深いフォントとして、Windowsのプリインストールフォント「MS Pゴシック」は代表的なもののひとつかもしれません。

「MS Pゴシック」

「MS Pゴシック」は過去にマイナビニュースで実施した美大生の「お気に入りフォント」アンケートにも名前が挙がった実力派(?)ですが、実際に日々グラフィック/エディトリアルデザインを手がけているデザイナーの目には、この定番フォントはどう映るのでしょうか。

今回は、デザイン会社にてエディトリアルデザイン/Webのレイアウトデザインを手がけているSさんに、「MS Pゴシック」についての率直な思いを伺いました。

――「MS Pゴシック」、デザイン業務で使うことはありますか?

私は主にエディトリアル(雑誌や書籍など)、グラフィック、Web領域でデザインをしていますが、基本的にMS Pゴシックは使いません。Webの領域では絶対に使わない、ということでもないのですが、少なくとも紙や物に印刷するもののデザインをする場合、使うことは通常ありません。

――「MS Pゴシック」には、ほかにも「MS ゴシック」という似た名称のフォントがあります。「P」とは何か、少し解説いただいてもよいでしょうか。

MS PゴシックのPは、プロポーショナル(Proportional)という単語の省略です。「MS ゴシック」では、ひらがなやカタカナ等はすべて統一の「全角」という単位で文字幅が決められていますが、「MS Pゴシック」では、ひらがなやカタカナは文字ごとにそれぞれ文字幅が異なるものとして定められています。

たとえば、「MS Pゴシック」の場合、「わ」と「り」のように、同じひらがなでも横幅が異なる文字に対して、それぞれにちょうどよい文字幅を定めています。それぞれ横幅が異なる「文字」ごとに適切な文字幅を設定することで、文字を並べた際の文字同士の間隔(字間と呼ばれています)がある程度統一され、読みやすくなる場合があります。

「MS Pゴシック」と「MS ゴシック」の比較

――デザイン業務ではあまり使われないということですが、Sさんが「MS Pゴシック」を仕事で使わない(使えない)理由は何ですか?

そもそも、「MS Pゴシック」が「解像度の低いディスプレイ」と「貧弱な文字の表示性能」という選択肢しかなかった昔のPC環境で、読みやすさを確保するためにつくられたフォントであること、それが根底にあります。そのような制約の多い環境下でいかに機能するかということに力点が置かれているため、文字としての美しさという点は脇に置かれていると思います。

また、そのことは印刷されることをそれほど考えられてつくられていない、ということも意味しています。そのような前提をふまえた上での話ですが、紙や物に印刷するもののデザインをする場合、「字形」と「佇まい」いう点から見て「MS Pゴシック」はつらいと考えています。

――「つらい」と言いますと?

「い」、「う」、「の」は他の文字に比べて少し太く見える

「字形」要するに字そのものの形のことですが、MS Pゴシックは上に示している通り、そもそもフォントの設計思想として美しさはさほど考慮されていないように思います。特にひらがなの統一感がなく、印刷した際の見た目がよくありません。

いくつか例を挙げてみます。MS Pゴシックのひらがなは、同じサイズで並べても、文字ごとに太く見えるものと細く見えるものがあります。特徴的なのは「い」、「う」、「の」で、少し太く見えます。この少しの太さのバラつきが、文章のレベルになった場合に読みづらさや、違和感を生みだしてしまいます。

また、「こ」が他のひらがなと比べて直線的すぎるという問題もあります。「こたに」と並べてみると面白いのですが、「こ」だけ明らかに直線でつくられており、そうではない「た」「に」と比べて浮いてしまっているように見えます。他にも様々ありますが、要するに、MS Pゴシックではひらがながバラバラとしてしまい、その統一感のなさが気になります。

似た字の形の文字だが、「こ」だけが直線的な形状をしている

――なるほど。「MS Pゴシック」の統一感のなさは、デザイン業務における使いづらさにどんな影響があるのでしょうか。

MS Pゴシックの使いづらさの問題は、フォントの雰囲気が中途半端なことにあると思います。

われわれデザイナーが文章をレイアウトするとき、ただフォントを選んで綺麗に置くことは全く問題ではなく、文章の佇まいをつくることが最も重要です。小学生が書いたようなクレヨンの手書き風フォントで、経済学者の書いた文章をレイアウトするのは通常あり得ません。テキストと文字のイメージが離れてしまうと、読者は「どういうテンションでこの文章に向き合えばいいのか」戸惑ってしまいます。デザイナーはこういった事態を、何か特別な目的がなければ避けなればなりません。そのためにフォントのもつ雰囲気、文字の組み方を適切に選択し、コントロールする必要があります。

先ほど、「MS Pゴシック」のひらがなの統一感のなさを指摘しましたが、「正直微妙な違いだなあ」と思いませんでしたか? その通り、微妙なんです。ひらがなは微妙に違うけど、漢字はそれなりにそろっていないこともない。ある程度統一してないことはないけれど、やっぱり統一されきっていない。この中途半端さは結局、「綺麗」「優しい」「上品」な印象も、「汚い」「力強い」「下品」な印象も与えることができないということです。

それゆえに、MS Pゴシックは中途半端なフォント、つまり文章の佇まいをつくることには使えないフォントとして、デザイナーの選択肢からは消えてしまうのだと思います。

――非常に詳細な解説、ありがとうございます。もしそんな中でも「MS Pゴシック」を使う理由がある業務が何かあれば、例を教えていただけますでしょうか。

Webサイトのデザインをする場合、キャプションのような小さな文章を「MS Pゴシック」で指定することがたまにあるそうです(私はやったことがありませんが)。設計思想の通り、ディスプレイ環境での可読性を確保するために使えば、きちんと役割を果たす、ということだと思います。

後は、WordやExcel、PowerPointでクライアントに納品するものをつくる際に使うことはあるかもしれませんが、最近はメイリオでやることがほとんどだと思います。

ここまで話しておいて何ですが、「MS Pゴシック」を否定するつもりはありません。PCをつかう皆が持っているであろうという安心感において、MS Pゴシック(とメイリオ)はとても強いと考えています。

――最後に、Sさんのお気に入りの日本語フォントを教えてください。

最近はGoogleが無料で配布している、Noto Sans CJK JPのファミリーがお気に入りです。新しすぎるわけでもなく、古すぎるわけでもなく、すこし角のとれた印象で可愛げがあるけれど、可愛すぎるわけでもない。個性がないわけでもなく、強くあるというわけでもない……こういってしまうと先ほどのMS Pゴシックの話とイメージが近いような印象を持つかもしれませんが、それらが非常に洗練された形でデザインされています。その点が非常に現代的で、気に入っています。

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