『デスノート』『デスノート the Last name』(06年)、スピンオフ作『L change the WorLd』(08年)で大成功を収めた実写『デスノート』シリーズ。誕生から10年の時を経て、映画『デスノート Light up the NEW world』(10月29日公開)が、まさかの続編として復活を遂げる。果たして、その"最終ページ"には一体何が書き込まれたのか。
マイナビニュースでは「独占スクープ 映画『デスノート』の最終ページ」と銘打ち、すべての作品を企画・プロデュースしてきた日本テレビ・佐藤貴博プロデューサーの「今だから語れる」証言を中心に、全20回にわたってその歴史を掘り下げていく。インタビューは合計約5時間、4万字近くにも及んだ。第3回は「松山ケンイチ」の伝説的な役作りエピソード。
――L役の松山ケンイチさんは、撮影直前に決まったそうですね。
藤原竜也と同じ事務所だったこともあり、名前は早い段階から挙がっていました。『ウィニング・パス』(04年)、『男たちの大和』(05年)などの映画に出演していましたが、当時の彼はまだまだ無名。『男たちの大和』のじゃがいもみたいな素朴な印象は好感が持てるなと思っていましたが、全くLではないなと(笑)。
キャスティングが難航する中で彼に決まったのも、いま振り返ってみれば運命的な縁だったのかもしれませんね。名前が売れている俳優だと個性の強すぎるキャラクターに躊躇してしまうかもしれませんし、観客もその俳優の持っているイメージを引きずってしまうかもしれない。そこで、松山ケンイチは無名ではあるけれど、無名だからこそ、観客に変な先入観を持たれることなく「L」を届けることができる。色白で姿勢が悪く、手足は細い。もう、会ったらシルエットが完全にLなんですよね。いろんな意味で真っ白できれいな男……それが初対面の印象でした。
――そんな松山さんのクランクインは、前編で夜神月と対峙するクライマックスシーン。
竜也くんのスケジュールが彼の主演舞台の関係で2月までだったので、まず彼中心のスケジュールを組みました。松ケンには申し訳ないけど後回し。前編での共演は、ラストカットのみなんですよね。藤原くんはそこでオールアップでした。
現場は北九州。竜也くんはほぼ順撮りでデスノートによる粛清を繰り返し、幾多の難関をくぐり抜けて、役として仕上がっている状態。一方の松ケンは初日ですから、まだLとして発声するのも初めての状態。それは、不利ですよね。私は十分に対峙できていたと思いますし、映画として文句のないラストシーンだったと思いますが、実際に現場で対峙した松ケンは、竜也くん演じる夜神月の存在感に圧倒的な差を感じたらしく、相当悔しがっていました。「Lが夜神月に負けたらダメです。ワイも竜也さんに負けたらダメなんです。必ず追いつき、絶対に上回ります」と燃えていましたね。
北九州での撮影最終日であり、竜也くんはさらにクランクアップだったので、その日はプチ打ち上げ(笑)。松ケンもモチロン同席していて、竜也くんが席を外した時にその悔しい思いを口にしていました。まあ、竜也くんに松ケンは、ガンガン飲まされてたけど(笑)。
撮影終わりでの宴会だったので、竜也が北九州公演でよく行く店もすぐに閉まってしまい、そのまま竜也くんのホテルの部屋で飲み明かしました。みんなでコンビニでお酒を買って。竜也くんは「終わった終わった!松山くん、がんばってね」みたいな感じ(笑)。
――松山さんにとってはいきなりの難関(笑)。
ええ(笑)。でも、Lという役への思い入れは最初からすごくて、キャリア関係なく、監督やわれわれにLについての意見をガンガンぶつけてきました。Lについてのディスカッションは本当に何度も重ねましたねぇ。「デスノート」二部作で、金子監督と松ケンで作り上げたLですが、その後、スピンオフ作品を作る際にも松ケンとは喧々諤々やりあって、結局、『L change the WorLd』のプロモーションが終わるまで、ずっと私と松ケンは2人でLのことを考え続けていたような気がします。
――演技力はもちろんですが、外見の評価も高いと思います。姿勢、しゃべり方、色白の肌。そういった外見の細かいポイントは、どのように決めていったのでしょうか。
ベースが色白だったのですごく作りやすかったです。漫画を再現しすぎると滑稽になりそうでしたが、まずは完コピしてみようと。これが正解。Lみたいな人は現実にはいませんが、そこまで違和感はない。そうやって外見が決まってやりやすくなったなったと、松ケンも言っていました。憑依型といわれる彼ですが、外見を作り上げてくれたスタッフにとても感謝していました。そして、実は性格やしゃべり方もLとかなり似たところがあるやつではあります(笑)。
――Lの特徴といえば大の甘いもの好き。どのお菓子を食べるかは、本人のアドリブだったそうですね。
前編ではホテルのルームサービスが基準となりますので、角砂糖やドーナツぐらいでそんなにバリエーションはありません。原作でもそういう描写は、あまりないんですよね。後編はLが作ったキラ対策室がベースなので、松ケンいわく「ワタリがあらゆるものを用意しているはず」と(笑)。前編でのディスカッションを経て、金子監督も細かな所作やお菓子の選択は松ケンに任せるようになっていました。松ケンが小道具チームにお願いして、テーブル二つ分いっぱいの和洋さまざまな種類のお菓子を常に用意。そしてセットの感じや、他のキャストとの間合いや芝居の雰囲気を感じた上で、Lとして食べるであろうお菓子を松ケンが選んで本番に臨んでいました。スタジオにいつも甘い匂いが充満してましたね(笑)。
――『L change the WorLd』では、子どもとのやりとりの中でお菓子が重要なアイテムとなります。
そうなんです。実は「デスノート」二部作でもLからお菓子を渡す人は限られていて。殉職した摸木刑事に供えられていたおはぎをLが食べてしまいますが、松ケンいわくはあれもLなりの弔いであると。松ケンはお菓子でLの感情を表現していたんですね。その部分をより強調したのが『L change the WorLd』なんです。このお菓子での表現は、原作以上に映画で松ケンが作り上げたイメージが大きいと思います。このあたりも、松ケン演じるLが伝説化していった一因かもしれませんね。
われわれももちろんそうですが、竜也くんも松ケンも、まずは原作へのリスペクトを第一にしていました。迷ったり、悩んだら原作に立ち返る。原作のイメージを実写化する最適な手段を考えに考え抜く。そういう思いがお客さんにも伝わったのだとしたら本当にうれしいことです。
――そして、Lを語る上で外せないのが、「ひょっとこのお面」。漫画には出てこないアイテムですが、最新作『デスノート Light up the NEW world』では後継者の竜崎も愛用するなど、実写ではすっかりおなじみです。
Lのトレードマークになっていますが、確かに原作には登場しません。ひょっとこのアイデアは会話の中から生まれたもので、デザインは「変なものの方がLっぽい」と。金子監督は「かっこいい方がいいんじゃないか」という考えで、オペラ座みたいなデスマスクをイメージしていました。ただ、松ケンは「やっぱり、ワイはひょっとこが……」と譲らなかった(笑)。金子監督も「しょうがないなぁ(笑)」と。松ケンがLになりきっていたからこそ、導き出せた答えだったと思います。
■プロフィール
佐藤貴博(さとう・たかひろ)
1970年4月26日生まれ。山梨県出身。1994年、日本テレビに入社。営業職を経て、2003年に念願の映画事業部に異動する。映画プロデューサーとして、『デスノート』シリーズ、『GANTZ』シリーズ、『桐島、部活やめるってよ』などヒット作話題作を数多く手がける。今年公開作品は、『デスノート Light up the NEW world』(10月29日公開)、『海賊とよばれた男』(12月10日公開)。
(C)大場つぐみ・小畑健/集英社 (C)2006「DEATH NOTE」FILM PARTNERS 監督:金子修介