iPadの導入効果を説明する野村證券 執行役会長 多田斎氏

スマートフォンやタブレットといった、スマートデバイスの企業導入に拍車がかかっている。先日、野村證券は8,000台のiPadを導入することを発表し、ANAではキャビンアテンダント6,000名がiPadでマニュアルを閲覧する方式に変えたことで、手荷物の削減を実現したほか、教育期間の短縮など、4億円のコスト削減を見込んでいる。

さらに、凸版印刷では会議時の資料閲覧に60台のiPadを利用し、紙資料の作成・配付にかかるコストの約80%削減した。金融機関でも、住友信託銀行が、個人顧客向けの資産運用商品営業ツールとしてiPhoneを活用。大量の資料をiPhoneから閲覧できるようにしたことで、効率的な営業活動を実現した。

ANAはファイル3冊分のマニュアル(約2.1kg)をiPadに格納した

ソフトバンク 代表取締役社長 孫正義氏は、7月に行われたイベントの講演の中で、「iPhoneもiPadも持っていない人は、人生を悔い改めていただきたい。どちらも持っていない人は、時代に乗り遅れている」と語っている。

導入規模は数台~数千台、利用方法もマニュアルやカタログの参照といった紙媒体の置き換え利用から、外出先から基幹システムにアクセスするというものまでさまざまだが、導入した企業はいずれも大きな効果を生み出している。

先行事例が充実してきたことで、スマートデバイスの導入を検討している企業も多いことだろう。ただ、その際、多くの企業が懸念しているのは、コストとセキュリティだ。

コストと管理負荷を低減するBYODは、今後必須になる

セキュリティを担保し、一元的な管理を行うためには、企業で同一端末を一括導入するのが簡単だろう。しかし、そのためにかかるコストは膨大だ。そのため、コストを削減して効率よくスマートデバイスをビジネスに活用する手法として、従業員の個人端末を業務で利用する「BYOD(Bring Your Own Device)」も注目されている。

BYODは、企業の端末購入コストを削減するだけでなく、従業員にとっても、会社用とプライベート用の2台を携帯し、使い分けるという煩わしさから解放されるメリットもある。

しかし、比較的セキュリティがあまい個人端末を業務用として利用するのは、企業にとって不安があるのも事実だ。また、端末紛失時、リモートワイプにより企業情報だけでなく、個人の情報まで初期化してよいのかという大きな問題もある。こんな問題に対して、ソリトンシステムズが提案するのが「DME」というソリューションだ。

ソリトンシステムズ モバイル&クラウド事業本部 副本部長 正木淳雄氏

「我々は特にBYOD推進派というわけではないのですが、今後の流れを考えるとBYODは必要になると考えています。海外ではすでに公的機関でも採用が進んでいますし、日本でも今は端末を支給していても、今後はBYODも視野に入れたいという企業が増えています」と語るのは、ソリトンシステムズ モバイル&クラウド事業本部 副本部長である正木淳雄氏だ。

スマートデバイスはOSのバージョンアップが頻繁にあり、それに伴って新機種もどんどん登場している。導入当初は会社で支給しても、リプレースも含めて、この先もずっと会社が支給し続けるのは難しいというケースもあるだろう。

「今のスマートデバイスの状況では、1年後の予想がつきません。また、正社員以外の短期労働者にもスマートデバイスを使わせたい場合や、海外で事業展開をする場合にはBYODは必須といえるでしょう。管理者や営業職は会社から支給し、それ以外の部署ではBYODというような使い方も考えられます」と正木氏。

すでに、企業での一括導入かBYODかを選択する時代ではなく、状況にあわせて双方を組み合わせるハイブリッド型導入も考えるべき状況にある。そして、そのような混在環境にも対応するのが、ソリトンシステムズが提供する「DME」というソリューションなのだ。

DMEとは

「DME」はスマートデバイスの内部に、「セキュア・コンテナ」と呼ばれる独立した領域を作成する。企業用アプリやデータは、すべてコンテナ内に格納され、データはすべて暗号化される。1台の端末内に、会社用と個人用という2台の端末を持つのと同じ環境を作り出すわけだ。

そして、コンテナ以外のスマートデバイスがデフォルトで持っている領域は、ユーザーが自由にアプリをインストールでき、プライベート端末としての利便性を失うことはない。

仮にユーザーが不用意な行動をとってスマートデバイスがウィルス汚染されたとしても、コンテナ内部にある企業のデータにアクセスされることはなく、リモートワイプもコンテナ領域だけを消去すればよく、社員のプライベートな情報には影響を与えないのだ(社員が了承すれば、すべての初期化も可能)。

導入に際して、業務に利用するからといって端末の初期化は不要で、DMEアプリをApple App StoreやGoogle Playからダウンロードしてインストールするだけよい。

「ポイントは、セキュア・コンテナによる管理機能をアプリとして提供していることです。スマートデバイスにDMEアプリを入れるだけで利用できます。コンテナ管理用のアプリを入れると、その上に、メールなどの業務アプリが載っている、というイメージです」と正木氏は導入の容易さを語った。

オフラインも利用可能!データはすべて暗号化

DMEには、メール、カレンダー、フォルダー、連絡先、TO-DOといった企業活動に必要なコミュニケーションツールが一通り揃っている。メールは、会社のExchangeやNotesのメールをそのまま利用でき、通信中も暗号化される。復号はユーザーが意識することなく、閲覧時に自動的に行われる。対応デバイスはiOSが動作するiPhone 3GS/4/4S/、iPod touch 3rd/4th、iPad、iPad 2およびAndroid 2.2以上の端末だ。また、MDM機能も備えている。

DMEのメニュー。このメニューを開く際にユーザー認証が行われる

メール画面

カレンダー

連絡先

実際の利用シーンを想像してみよう。朝、駅に向かう途中で同期しておけば、メールや予定の変更分がダウンロードされる。添付されたファイルの閲覧も可能だ。一度ダウンロードしてしまえばオフラインでも閲覧できるから、地下鉄などの電波が入らない環境でも利用できる。端末にダウンロードされたメールは暗号化されているため、端末が盗難されても盗み見られる心配がない。

予定表や会議予約、連絡先といったものも外出先から閲覧可能だ。商談が終わった後の休憩時や移動時間にさっと確認できる。添付ファイルの同期もできるので、スマートデバイスによるプレゼンも可能だ。

ユーザー認証は、Active DirectoryやDomino LDAPと連携するため、新たにサーバを立て、スマートデバイス用のユーザーを登録する必要はなく、管理者にもエンドユーザーにも負荷がかからない。DMEへのログイン操作もスワイプログインを使用することで、歩きながらの片手作業で済ませることができる。

DMEのメニューのログイン画面

隙間時間活用でワークスタイルが変化

読者の中には、外出先でメールやスケジュールが確認できるだけで、ワークスタイルが変わるのかと思う人がいるかもしれないが、実は大きく変わるのだ。それは、先行導入企業の多くが語っていることだ。

「私自身、DMEを使うようになってワークスタイルが変わりました。通勤中にメール確認を済ませるようになり、スマートフォンでニュースのチェックもできるので、会社に到着して最初にやっていたことがすべて通勤中で終わるようになっています。隙間時間を有効に使えるようになったことで、仕事に余裕ができました」と正木氏も語る。

これは、新規端末の半数以上がスマートフォンになった今、多くのビジネスマンが実践していることだ。しかし、すべての人たちの端末で、データ漏洩対策がなされているのかといえば疑問だ。中には、システム部に内緒で、会社のメールを自動転送している人もいるだろう。であるならば、セキュリティを確保した上でBYODを認めるのが、企業にとって現実的な対策といえるのではないだろうか?

現在の「DME」はメール、カレンダー、会議室予約、TO-DO、ファイル閲覧といったコミュニケーションツールが中心だが、今後はをSecure Browserが搭載することが予定されている。これが搭載されれば、企業内システムをWebアプリ化して盛り込むことができるようになり、業務システムの外出先からの利用にも対応可能だ。また、将来はリモートデスクトップ機能や、ファイル共有といった機能も追加する計画がある。

「今までは業務に絶対必要なものに絞り込んで提供してきましたが、Webアプリが利用できれば、多くのシステムが利用可能になります。ユーザー企業が自社開発アプリを搭載することも可能です」と正木氏。

隙間時間の活用、出張中や外出先での業務、災害時等に自宅からの作業等がよりやりやすくなることで、ビジネスパーソンのワークスタイル変革に役立ちそうだ。

本連載では、今回のDMEを足がかりに、企業のスマートデバイス利用を成功に導くポイントを紹介していく。次回は、運用面に焦点を当て、DMEのシステム環境について言及したいと思う。