自動運転について、やや静観の構えを見せていた国産勢(日産自動車を除く)だが、ついにレクサスが動き出した。2017年1月、デトロイト・ショーで華々しくワールドプレミアされ、日本では6月に正式発表されたレクサス「LS」に、満を持して最新のシステムが搭載された。市販を前にして、プロトタイプの試乗会がデンソーのテストコース(北海道)で開催されたのでレポートする。

最新のシステムを搭載するレクサスの新型「LS」

自動ステアリングで歩行者回避

さすがにレクサスのフラッグシップであるLSということで、新システムは7つの代表的な機能を有している。すでに実用化済みの技術を合わせると多岐に渡るが、実際にさまざまなドライバーアシストを経験して感じるのは、「安心できて安全なこと」と「便利で快適なこと」に分類できると思うのだ。

まず安心・安全を高める機能として注目したいのは、歩行者を検知して、自動的にステアリング操作を介入させながら、緊急時に自動停止する対歩行者のプリクラッシュ・セーフティ(PCS)だ。これは日本だけでなく、米国でも増加している歩行者の巻き込み事故に対処するもので、先日発表されたばかりのメルセデス・ベンツ「Sクラス」にも同様のシステムが搭載されており、同時期にレクサスとメルセデスが採用したことは興味深い。

歩行者を自動的なステアリング操作で回避(動画提供:Lexus International)

システムはこうだ。カメラで歩行者を認識すると、同一車線内に限定されるが、自動的なステアリング操作で回避して停止する。北海道の網走で開催された試乗会では、時速60キロで車線の左側を走行し、左前方にいる歩行者を検知するという、両者の位置条件を絞った状況でテストしたが、公道では様々なケースが想定されるだろう。その効果は未知数だが、死亡事故を減らすきっかけとなれば幸いだし、仮に歩行者と接触しても車速が低ければ被害(傷害)も低減できる。

同一車線に限定している理由の1つとしては、「R79」という自動操舵に関するEU法規が存在する。日本もこの基準の緩和を段階的に取り決めているのでまだ条件が厳しいものの、周囲の安全を確保した環境下で、より大胆に回避できるようになる日も近いかもしれない。

ドライバーの緊急時には自動で停止、周囲への配慮も

さらに、運転中のドライバーに、病気などの異常が発生した場合に停車支援を行う本格的なデッドマンシステム(レーントレーシングアシスト=LTA連動)が搭載された。ドライバーの意識喪失で起こるクルマの暴走問題を解決するため、国土交通省の車両安全対策委員会では、数年前からデッドマンシステムの導入を推進してきたが、その念願が叶ってLSで実用化されたわけだ。

例えば、高速道路をレーダークルーズコントロールとレーントレースアシストを併用して走行していれば、もしドライバーの意識がなくなったとしても、①まず時速70キロ前後までゆっくりと減速し、②さらに速度を落とし時速45キロまで減速すると、③クラクションとハザードで異常事態を周囲に知らせて停止する。そして、④電動パーキングブレーキを作動させてドアロックを解除し、レスキューを受け入れやすくすると同時に、⑤「ヘルプネット」に救助を依頼する。

ドライバー異常時はシステムがクルマを停止(動画提供:Lexus International)

すぐに緊急停止させずに、後続車に衝突の危険回避させる時間的な余裕を与えていることがもっとも重要なことだが、それをクルマ側がすべて行ってくれるのだ。

また、ドライバーのうっかりミスに対して安心感を高めてくれるシステムとして、見通しの悪い交差点などで他車が接近すると、レーダー検知してヘッドアップディスプレイ(HUD)で注意喚起するフロントクロストラフィックアラートや、駐車時に車体後方の歩行者を検知して停止してくれるパーキングサポートブレーキなど、日常に起こり得る問題に対し、きめ細かに対処してくれる機能が整えられている。

レーンチェンジには進化の余地

一方、便利快適の分野では、すでにメルセデス・ベンツのSクラスが欧州で実現したように、地図からコーナーのRを予見し、速度を自動調整するレーントレースアシスト(LTA)が挙げられる。従来のアダプティブクルーズコントロールでは設定速度を上限とし、前車がいればその車間を維持して走ることしかできなかったが、LTAが備わったことで、単独走行でもコーナーを安全に曲がれる速度に調整してくれる。

実走行テストでは、時速90キロを超えても高速コーナーが近づくと、わずかながら減速し、コーナーの出口が近づくと、スムースに再加速した。丁寧なドライビングは、メルセデスSクラスと同じようにハイレベルな制御だった。ちなみに、HUDには自車の実勢速度と設定速度が表示され、実状況がとても把握しやすかった。

LTAはハイレベルな制御を実現(動画提供:Lexus International)

すでにテスラやメルセデス、BMWが実用化している、自動で車線変更するレーンチェンジアシスト(LCA)は、どこまで存在意義があるのか疑問の余地はあるものの、LSのそれはドライバーの意思を明確にシステムに伝えるため、ウィンカーレバーを半分押してから機能するように工夫されている。

ブラインドスポットで隣のレーンが安全であることを確認してから自動操舵で車線変更すると、自動的にウィンカーは消えるのだが、レーンチェンジ可能であると判断すると、青く太い矢印がHUDに表示されるため、とてもわかりやすく可視化されている。ただし、安全を優先したシステムゆえに、車線変更の動作はゆっくりで、せっかちな私には耐えられないかもしれない。

だが課題はそこではなく、自動操舵の基準が今後、どのように制定されるのかによってシステムの機能に影響が出てくるということ。自動操舵はまだ始まったばかりだから、現状のLCAに大きな期待は寄せられないのが現状だ。近い将来、自動運転レベル3を実用化したいと考えているアウディは、LCAにはまだ懐疑的な考えを示している。アウトバーンでは時速200キロ以上のスピードで接近するクルマもいるため、現状のセンサーでは性能が不十分だという見解だ。とはいえ、いろいろなケーススタディを考慮して開発された機能だけに、安心できるシステムとして進化する日も遠くないだろう。

今回、レクサスLSで採用された新機能は、あくまで高度なドライバー支援システムである。レベル3(半自動運転)よりも成熟した運転支援は、インフラを加味しても実際の公道走行では快適で安心感が増す。自動化ばかりが先行して話題となっているが、高度に洗練された運転支援の価値は、さらに高まっていくだろう。その意味では、LSに与えられた高度なレベル2の価値を十分に感じることができた。

著者略歴

清水和夫(しみず・かずお)
1954年、東京都生まれ。武蔵工業大学電子通信工学科卒業。1972年のラリーデビュー以来、国内外の耐久レースで活躍する一方、モータージャーナリストとして活動を始める。自動車の運動理論や安全性能を専門とするが、環境問題、都市交通問題についても精通。著書は日本放送出版協会『クルマ安全学のすすめ』『ITSの思想』『燃料電池とは何か』、ダイヤモンド社『ディーゼルこそが地球を救う』など多数。内閣府SIP自動走行推進委員の構成員でもある