アナログ技術は業界全体で人数/知識ともども不足気味

この連載の一番最初の引き合いにも出したように、「アナログ」という言葉は「レガシー」というイメージがあるとおり、はるか100年以上前から用いられてきている電子応用技術です。そういう意味では確かに古い、枯れた技術であると言えるでしょう。

しかし現代では、その技術伝承が上手くなされておらず衰退してきており、とくに中堅から若手の技術者はその人数、技術知識がだいぶ少ないという現状があると思います。

アナログ回路は最新技術との融合にもなっている

また一方で、デジタル回路でも例として挙げましたが、最近の回路設計においては回路の動作速度が「ハイスピード」化してきていますので、アナログ電子回路設計分野でなくても、結果的にアナログ電子回路技術が必要とされ、最先端技術になってきています。

アナログ回路技術者でも「低速な回路、まあオーディオ回路くらいまでなら…」という範囲を設計できる技術者ならばそれなりに存在しますが、高い周波数まで設計できる(欲を言えば高周波アナログ回路技術もわかれば)技術者というとかなり少なくなります。

このように技術的にも、人数的にも、そして先端的にも、アナログ技術者が不足しているわけですから、自身で「アナログも判る技術者になってみよう」という考えは現代では大切なことです。

アナログ回路とデジタル回路自体も融合してきている

現代の電子回路設計では、アナログ回路とデジタル回路がいろいろなところで融合されてきています。図4-7-1のように自然界の物理現象をセンサなどでアナログ信号化し、そのアナログ信号をデジタル値に変換し(A/D変換)、デジタル信号処理によりソフトウェア・数値的に計算し、処理する、というのが現代のシステムです。

例を挙げるまでもなく、デジタルオーディオ機器、iPodなどのタッチ操作、携帯電話や大型モーター制御など、それらはすべてアナログ系とデジタル系が融合しています。

この点からするとデジタル回路とアナログ回路の両方が良く判った技術者、これらを融合したりインタフェースしたりできる技術者が、今後はいわゆる「勝ち組」になると言えるでしょう。

図4-7-1 現代のシステムは、アナログ信号をデジタル値に変換しデジタル信号処理によりソフトウェア・数値的に計算処理する、というのが一般的

成功する秘訣としては何があり、どうすれば良いのか、何が必要なのか

元々古くからある技術なわけですから、まずは温故知新(古きをたずねて、新しきを知る)を行い、「古くから長きにわたって蓄積されてきた基本技術」を理解することが大事でしょう。同じ話題を複数の書籍で扱っている技術は重要な基本技術です。そのあたりから攻めてみましょう。

それと合わせて、コンピュータを用いたソフトウェアによるシミュレーション技術がかなり進んできています(例を図4-7-2に挙げる)。このシミュレーション技術を用いて、「アナログ回路は勘と経験」だけという観念から、より高度な理論解析をベースとした、よりハイスピードかつ安定した回路設計を実現する、という設計スタイルが実際のところです。

また特にハイスピード技術を理解するには、信号が波として伝達する「伝送線路」の理解(参考書には難しそうに書いてあるが、イメージで理解していけば全然難しくない)、簡単でかまいませんので基本的な電磁気学の知識、これらが必要です。これらは高周波アナログ回路技術にもつながっていきます。

なおこれらにも「温故知新」の基本ノウハウは必須ですから、まさしく「融合」と言えるでしょう。

図4-7-2 電子回路シミュレーション技術は大きく革新してきている

人材がさらに不足してくる、高速アナログ回路設計やデジタル・アナログ混在設計のできる技術者になれれば、それがアナログ技術者としての成功の道でもありますし、より自分の武器と活躍の世界が広がると考えられます。

もしそこまで辿りつけなかったとしても、また元々デジタル回路の設計技術者であったにしても、アナログ回路のほんのちょっとしたエッセンスを知っていることで、基本的なアナログ回路の設計、ハイスピード・デジタル回路での設計やトラブル解決上の、とても強力な懐刀(能力)になってくれるはずです。

終わり

著者:石井聡
アナログ・デバイセズ
セントラル・アプリケーションズ
アプリケーション・エンジニア
工学博士 技術士(電気電子部門)

参考文献
石井聡:合点! 電子回路超入門 2009年10月 CQ出版社