日産自動車は2027年度末に追浜工場(神奈川県横須賀市)、2026年度末に子会社である日産車体の湘南工場(神奈川県平塚市)で生産を終了すると発表した。これにより、報道が先行して地域の不安が募っていた日産国内工場再編の方向性が明確になった。本拠地である神奈川地域での生産打ち切りは日産にとって苦渋の決断。再建に向け、まさに背水の陣をしいた格好だ。
かつてはグローバル販売600万台を掲げたホンダ
今回、トランプ関税による逆風も追い討ちとなって、自動車各社の国内生産体制の維持が大きな関心事となっている。その意味では、日産と“経営統合破談”となったホンダが、日産に先行して拡大し過ぎた世界生産の是正、国内外の工場閉鎖を断行している。
ホンダは2019年度から2021年度にかけて掲げた「グローバル四輪車600万台」の拡大路線で生じた負の遺産の整理に踏み切った。その際に同社を率いていたのは前社長の八郷隆弘氏だ。
実はホンダも、四輪事業の世界6極体制でグローバル販売600万台を目指し、国内外で生産能力拡大路線を推進したものの、需給ギャップが広がり、戦線縮小を余儀なくされた。2019年にアルゼンチンとフィリピンで工場を閉鎖したのに続き、2021年度末までに英国、トルコ工場を閉鎖し、国内も狭山工場を閉鎖して寄居工場に集約した。
ホンダの国内四輪車生産再編は、軽自動車が主力の鈴鹿工場はそのまま維持しつつ、1964年に稼働した狭山工場を閉鎖して、新鋭の寄居工場に集約するものだった。加えて、連結子会社で部品製造とともにホンダの軽商用車も生産していた八千代工業をインドのマザーソン・グループに売却し、ホンダ系部品メーカー4社と日立オートモティブシステムズを統合して「日立アステモ」を設立するサプライヤー再編も断行した。
四輪事業の内外工場閉鎖を主体とした構造改革を経て、ホンダでは2021年4月に三部敏宏社長が就任。「第二の創業、ホンダらしさの回復、攻めの経営」を打ち出した三部社長は就任早々、「2040年までにホンダ車をEV・FCVに切り替える」と“脱エンジン車”を宣言して話題を呼んだ。
その流れでソニーとEV合弁会社を設立し、米国のゼネラルモーターズ(GM)とは三部社長自らが戦略提携を推進して量販EVの共同開発や自動運転技術の連携で協力体制を構築。いすゞ自動車とは大型トラックFCVの協業で合意するなど、“自前主義”からの脱皮と柔軟路線への転換を図っている。
だが、米GMとの戦略提携路線は断念するなど、大きな成果が出ていないのが現状だ。加えて、ホンダの創業者コンビとして有名な本田宗一郎・藤沢武夫の技術・営業の両トップ以来の流れを汲んで、二輪事業から四輪事業の営業関連を統括し、三部社長の片腕だった青山真二前副社長をスキャンダルで失ったことで、経営陣の立て直しも課題となっている。
米国とともに稼ぎ頭に成長した中国事業は大きく後退。北米でも、トランプ関税の影響から、カナダで計画しているEV電池新工場の建設を延期するなど、方針転換を求められた。
ホンダにとって米国は最大の収益が期待できる市場であり、かつては「アメホン(米国ホンダ)一本足打法」と言われたほど。中国市場での急回復が難しい状況の中、主力の米国市場ではハイブイリッド車(HV)に加え、日産が米国工場で生産する大型ピックアップトラックをホンダブランドで供給するなど強化を図る。
SDVでホンダ・日産が協力?
ホンダの三部敏宏社長は5月20日、「ビジネスアップデート2025」を発表した。ここでは、世界的なEV減速の現実対応として、2030年までのEV関連投資を従来計画していた10兆円から7兆円に減らすと明言。10兆円投資の発表からわずか1年での大幅減額で、ホンダのEV戦略は後退したと受け止められた。その分、米国で伸びているHVに注力し、次世代HVの投入を明示して「現実路線」を強調。ただ、2040年に向けたEV・FCVへの全面切り替え方針に変更はないと言う。
電動化戦略の変更と共に注目されたのが、ホンダがクルマの知能化の目玉として2027年から搭載を開始する次世代ADAS(先進運転支援システム)だ。これは、カーナビで目的地を設定すると、一般道から高速道路までクルマがアクセルやステアリングなどを操作してくれるシステムで、中国ではNOA(ナビゲートオンパイロット)と呼ばれ普及が進んでいる。
日産も「プロパイロット」でかねてからこのシステムを進化させてきている。三部ホンダが掲げるクルマの知能化では、日産と次世代車SDV(ソフトウェア・デファインド・ビークル)の基盤ソフト連合を組むことで、世界に対抗していくとの見方ができる。
ちなみにトヨタ自動車は、子会社のウーブン・バイ・トヨタが開発した基盤ソフト「アリーン」を新型「RAV4」に搭載すると発表している。SDV開発ではマツダもトヨタに連動していく考えを示している。
ともあれ、ホンダは三部敏宏氏が2021年4月に社長に就任してから、今年で5年目を迎えている。ホンダのトップは6年間で交代するのが慣例になっているので、残り2年間でホンダ生き残りの方向を定めなければならない。その意味では、真の自前主義からの脱皮に向けて、ホンダも正念場を迎えている。