三菱重工は1月23日、ANAへのMRJ量産初号機の引渡し予定を、2018年半ばから2020年半ばに変更することを発表。納入の延期は今回で5回目となる。ライバル社であるブラジルの航空機メーカー・エンブラエルの新機材より、納入が早いことをひとつのメリットにしていたMRJだが、これで両社のバッファは事実上なくなる。

MRJの延期は今回で5度目となる

飛行試験のやり直しも

三菱重工業の宮永俊一社長

三菱重工業の本社で行われた記者会見には、宮永俊一社長がMRJの開発状況を説明。延期の理由としては、一部装備品の配置変更等を実施すること、また、電気配線全体を最新の安全性適合基準を満たす設計へ変更すること、このふたつの変更から今回の延期が決定された。

今回の決定に関して宮永社長は、「安全性には自信をもっていますが、国際的に説明しやすい設定に変更することを決断しました。開発は7合目、8合目まで進んでいます。ただし、本当に世界で売れる飛行機として安心安全という面で最先端なもの・最高水準なものということで作業を進めているところです。そのためにはやはりこのくらいの時間はかかると判断しました」とコメントした。

開発スケジュールの現状

また今回、変更が必要になった電気配線に関して、MRJのチーフエンジニアである三菱航空機の岸信夫副社長は、「昨年の秋にグローバルの専門家に全体的な見直しをしてもらったところ、配置を見直した方がいいという声がありました。MRJには2万3,000本以上の電線があり、(型式証明においては)その1本1本の安全性を証明しなければいけない。その配置が決まった後にそれぞれの配線が決まる」と言う。

MRJは2015年11月の初飛行以来、既に3機が米国で飛行試験を行っており、この1年程度で飛行時間は400時間を越えている。MRJ開発においては試験飛行機の飛行試験は2,500時間を予定していたが、今回の変更によって飛行試験をやり直すことも視野に入れており、飛行試験の時間そのものも増やすことを見越している。なお、試験飛行機は全部で5機あるが、今後、試験飛行機を増やすかどうかは未定となっている。

型式証明の取得に向けたスケジュール

外国人の活用で世界水準の開発基盤を

5度目の延期で見据えている納入時期は2020年半ばだが、宮永社長は「五輪の前に飛ばしたいという想いはあります。2019年末までに(納入)したいのは事実。ただし、今の段階では断言できる自信はない」とコメントした。2019年末までに納入を目指すのであれば、型式証明は2019年半ばに取得というスケジュールになる。

開発スケジュールの現状として、2016年11月以降、外国人エキスパートの活用を拡大することで、外国人エキスパートと日本人が一体となった世界水準の民間完成機開発の土台をつくるに着手している。

外国人エキスパートの活用を拡大

「実際にテストフライトをしている機体を海外の方々に見てもらって、これはすばらしいという評価をいただくことがあります。しかし、国際的に共通化させたルール、例えば安全のルールに対して、より分かりやすく説明できるような設計資料等、我々はかなり知見が足りないところがありました」と宮永社長が語るように、大きな関門である型式証明の取得に向けて、人的資源の補強を行っていく。

また、MRJ開発チームとは別に、将来差別化技術開発チームも設定。将来差別化技術開発チームでは、更なる差別化技術の開発とともに、次世代機コンセプトの技術戦略立案と開発を担っていくという。

今回の変更に伴う財務基盤に関しては、「開発完了に向けて、単年度キャッシュフローはこの2~3年でピークアウトする」(宮永社長)ことを見込んでおり、今後のキャッシュ投入は、三菱重工グループ全体で生み出すフリーキャッシュフローにより対応可能としている。また損益影響に関して、開発費の増加が同グループ全体の単年度損益に与える影響は軽微で限定的と判断。外国人エキスパートも含め、開発コストは計画よりも3割程度増えることを見越している。

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