東京大学大学院教育学研究科附属 発達保育実践政策学センターは8月25日、「保育の質の保障・向上への取り組みに関する全国大規模調査」の結果を発表。2万379の保育・幼児教育施設と、1,718の市区町村を対象に行ったもので、保育に関する環境や自治体の認識が浮き彫りとなった。

東京大学大学院教育学研究科附属 発達保育実践政策学センターの秋田喜代美センター長

保育の質の保障、施設ごとの格差に懸念

今回の調査は、日本における保育・幼児教育の質の保障・向上に向けた取り組みがどのように行われているのか調べるために実施したもの。性急に保育を拡充するなかで、保育の質が十分に保障されているか、施設・地域によって格差が発生しないかという懸念などが背景にある。

保育者には、職務の負担感や子どもたちへの関わり方、自治体には、子育て支援の施策を中心に質問紙を郵送する方法で調査。7,076施設の保育者3万700名、577名の首長、811名の子育て支援に関わる担当者から回答を得た。

子どもの活動スペース、東京23区で施設間の差が特に顕著

保育者への調査では、園の環境について施設間で差のあることが分かった。担任保育者に「園庭や近隣の公園などの、体を動かす遊びのできる環境が確保されている」(1・3・5歳児クラス)という点で評価してもらったところ、認可保育所・認定こども園・幼稚園に比べて、小規模保育所・認可外保育施設の方が低いスコアとなった。室内環境についても同様の結果となり、特にこうした施設間でのスコアの違いは、東京23区でより顕著に認められたという。

また、担任保育者が最も負担感を強く認識していたのは「事務作業負担」「仕事の責任の重さ」「保育者の不足」であり、給与の不足を上回った。これらの労働環境・待遇にまつわる負担は、職務満足感の低下や体調不良とも関係していて、同センターでは「特に事務作業負担について、園レベルだけではなく、国・自治体レベルで改善していく必要がある」としている。

保育の量の拡充が優先事項に

市区町村の首長への調査では、「保育の量の拡充」には重点が置かれているものの、「保育の質の保障」に関しては、優先度が低いことが浮き彫りとなった。

「乳幼児期の保育・教育に関する政策のうち、自治体で特に重点を置いて取り組むべき課題を3つ選んでください」と尋ねたところ、「認可保育所の整備・増設」については39%となったものの、「保育・教育の運営や実践に対する監査・外部評価の実施」は5%にとどまった。「認可外保育施設・小規模保育所の認可保育所への移行」は3%、「認可外保育施設における保育の質の保障」は2%となっている。

子ども・子育て支援新制度の成果としても、「保育の質の保障」に関しては評価が低くなった。

同制度の導入後、市区町村の担当者の49%が「乳幼児期の保育・教育施設が多様化した」(ややそう思う、とてもそう思う)と答えた一方、「子育てや保育・教育の質の保障が進んだ」(ややそう思う、とてもそう思う)と答えた人は、31%にとどまっている。

また92%の市区町村が、認可外保育施設に対して、定期的な事前予告なしの立ち入り検査を実施していないことも分かった。第三者評価で問題があった場合にも、16%の市区町村しか、改善指導とフォローアップを行っていなかった。

同センターは2015年7月に設立されたばかり。秋田喜代美センター長は「これからの乳幼児期の保育・教育のあり方を探るための第1弾として、今回の調査を行った。より広く社会の皆さまの課題とつなぎ合わせながら知見を発信し、現場の声から課題を作って、これからも研究を深めていきたい」と話している。