量子科学技術研究開発機構(量研機構)は6月13日、悪性褐色細胞腫を標的とした治療薬剤「211At-MABG(メタアスタトベンジルグアニジン)」の製造に成功し、同薬剤がマウスに移植した褐色細胞腫に対して高集積し、腫瘍を大幅に縮小できることを明らかにしたと発表した。

同成果は、量研機構 量子ビーム科学研究部門 高崎量子応用研究所 石岡典子上席研究員、大島康宏主任研究員、渡辺茂樹主幹研究員、量研機構 放射線医学総合研究所 東達也部長、脇厚生室長、吉永恵一郎チームリーダー、辻厚至チームリーダー、永津弘太郎サブチームリーダーらの研究グループによるもので、6月11日~15日(現地時間)に米国カリフォルニア州サンディエゴで開催される「米国核医学会」にて発表される予定。

褐色細胞腫は主に副腎に発生する腫瘍で、悪性の場合、遠隔転移が認められるため、外科手術による根治は難しく、従来β線を放出するヨウ素-131(131I)を使用した131I-MIBG(メタヨードベンジルグアニジン)による治療が行われているが、個人差が大きく、β線の飛程が長いことから、腫瘍周囲の正常組織への影響が懸念されている。

β線よりも、飛程が短く生物効果が高いα線が利用できるようになれば、強力にがん細胞内のDNAを破壊することができ、正常組織に対する放射線の影響も最小限に抑えられる。そこで今回、同研究グループは、α線を放出し、ヨウ素と似た化学特性を有する211Atに着目。211At-MABGの製造に成功した。この211At-MABGを、褐色細胞腫を移植したマウスに1回投与した結果、腫瘍に集積してその増殖を抑制するだけでなく、投与7日後までに腫瘍が約半分に縮小。一方、副作用の指標である体重に影響は認められなかった。

同研究グループは、今回の成果から211At-MABGが悪性褐色細胞腫の効果的な治療薬となることが期待されるとしており、今後は安全性についてさらに詳細な検討を進めていく予定だという。

がん細胞を狙い撃ちするα線放出核種を標識した新しい治療薬剤を開発