パ・リーグでは今、若手捕手が確固たる地位を築きつつある。今シーズン、パ・リーグ捕手部門のベストナインとゴールデングラブ賞をダブルで受賞した伊藤光(オリックス)は25歳。ここ数年、パ・リーグを代表する「顔」にもなってきている嶋基宏(楽天)は、30歳を迎えたばかりだ。
今季は多くの球団でレギュラー捕手が若返り、また、将来有望な若手捕手たちが出場機会を増やして、経験を積んだ。そこで、パ・リーグ各チームの捕手事情を振り返っていきたい。
高卒新人新記録の「代打3本塁打」を放った森
まずは明徳義塾高から高校生ドラフト3巡目で入団したプロ7年目で、昨年と同じく今季も137試合に出場した伊藤光。リーグNo.1に輝いたチーム防御率2.89を陰で支え、自身の守備率.997もリーグトップだ。そんな伊藤が今季、優勝を逃した試合後にベンチで号泣した姿を覚えているファンも多いだろう。来季こそ、さらに一回り大きく成長して、喜びの涙に変えてほしい。
将来的にはパ・リーグはもちろん、球界を代表する捕手になる可能性を示してくれたのが、森友哉(西武)だ。1年目の今季は2軍で打率.341、5本塁打、41打点の好成績をマーク。好調な打撃などを評価され、7月末に1軍へ昇格した。
8月14日のプロ8打席目に初本塁打を放つと、翌15日、16日には高卒新人では48年ぶりとなる3試合連続本塁打を記録。さらに代打で登場した9月9日の試合でも本塁打を放ち、高卒ルーキーとしては史上初となる「代打でシーズン3本塁打」を達成した。このド派手な活躍は、他球団のファンをも魅了。FA移籍を封印した正捕手・炭谷銀仁朗も、来季はうかうかできないだろう。
ロッテのし烈な正捕手争いを制するのは……
今季のプロ野球は、ロッテの若手捕手たちも話題となった。ドラフト2位で入団した1年目の吉田裕太、2年目の田村龍弘、4年目の江村直也らのし烈な正捕手争いだ。シーズン前半は24歳の吉田が抜擢(ばってき)され、先輩捕手の金澤岳や川本良平の一歩先を行った。ところが、夏場に右足首を痛めて1軍登録を抹消されると、後半戦はほとんど出場できなかった。結果、50試合の出場に終わった。
このチャンスをモノにしたのが、若干20歳の田村だ。当初は江村と併用されるも、伊東勤監督や先輩投手陣の信頼を得て、徐々に試合数は増加。昨季の7試合から50試合と、飛躍的に出場数を増やした。対する江村は昨季の64試合から今季は44試合に減ったことからも、田村への期待の大きさがうかがえる。
今季は4位に終わったロッテは、長らく正捕手を務めた里崎智也が引退。3人の若手捕手たちが切磋琢磨(せっさたくま)し、より高い次元への成長につなげることができれば、チームが上位に浮上することも可能だろう。
日本ハムは27歳の大野奨太が105試合に出場して、チーム投手陣を引っ張った。さらに、持ち前の打力センスを生かすために、内野手としての起用が多い近藤健介はプロ3年目の21歳。ポストシーズンでも活躍をみせた近藤は来季、内野手と捕手のどちらを中心に起用されるか注目したい。
「名捕手あるところに覇権あり」を地で行くのは?
各球団とも若手捕手が伸びている中で唯一、例外といえるのがソフトバンクだ。2014年シーズン前に山崎勝己がFAでオリックスに移籍した代わりに、日本ハムから鶴岡慎也を獲得。その鶴岡が98試合に出場し、112試合に出場した細川亨と2人でホームベースを守り通した。高谷裕亮もその後ろに控えており、そのほかの捕手は1軍に上がることさえも難しい状況だ。
若手捕手では、特に2010年ドラフト1位入団の山下斐紹に期待がかかる。非凡な打撃技術と高い身体能力に定評のある山下は、プロ4年目の今季も2軍暮らしが続き、同じ22歳の拓也(甲斐拓也)と先発マスクを争った。
ちなみに拓也は160センチと小柄だが、「送球能力の高さ」(強肩だけではない)は12球団すべての捕手と比較してもトップレベル。山下と同じ2010年の育成ドラフト6位で入団後、地道な努力でドラフト1位と肩を並べるまで成長した。どちらが先に1軍に定着するか……。山下にはドラフト1位の意地を見せてもらいたい。
野村克也氏(元南海ほか)はかつて、「名捕手あるところに覇権あり」と語ったが、どの球団がその言葉を長きにわたって体現することができるのか。紹介した選手がそのキーマンになるかもしれない。来季以降、引き続き注目していきたい。
週刊野球太郎
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