測定装置(NMR:200MHz BRUKER製)と緒方博士

英ケンブリッジ大学は3日、同大先端光電子工学センターの緒方健博士と化学学部のClare Grey教授らにより、従来の10倍以上の容量を持つシリコン型次世代リチウムイオン電池の反応機構を解明したと発表した。

これにより、今後スマートフォンや電気自動車などに搭載されうる、従来の数倍の容量を持つ高容量リチウムイオン電池の開発が加速的に進展する可能性がある。研究成果の詳細は、同日付で英国科学誌Nature Publishing GroupのNature Communicationsにオンライン掲載される。

シリコンはリチウムイオン電池の負極に用いられ、従来の炭素を用いた電極の10倍以上の容量密度を有する。このため、シリコンを用いたリチウムイオン電池は、スマートフォンやタブレット、ノートPCといった高容量バッテリのニーズへの応用が期待されている。しかし、電池の劣化原因となる詳細な反応機構は不明で、従来シリコンの電極への応用は限られたものだったという。

今回、同研究チームは「体積膨張を緩和するシリコンナノワイアー」(直径がナノレベルに制御されたシリコンから成るワイアー)と、無秩序原子配列の定性・定量解析が可能な核磁気共鳴技術(原子核スピンの共鳴現象を利用した測定技術)を組み合わせた、新しい測定システムを開発。これにより、電池動作中の詳細な状態推移を明らかにした。

同研究チームでは、この成果により、現在負極で部分的に使用されているシリコン比率が増加することで、従来の数倍程度の容量を有する次世代リチウムイオン電池の開発が期待されるとする。

バッテリに用いられたシリコンナノワイアーの電子顕微鏡写真。ワイアーはカーボンファイバーを覆うように生えている。ワイアーの直径はおよそ60ナノメートルで、長さは50マイクロメートルほど