北朝鮮の映画界に初めて密着したドキュメンタリー『シネマパラダイス★ピョンヤン』の日本公開を記念して25日、東京・新宿区の早稲田大学・大隈記念講堂小講堂で試写会が実施され、終了後に、早稲田大学政治経済学術院ジャーナリズム大学院の野中章弘教授、在日同胞向け情報紙「朝鮮新報」を発行する朝鮮新報社の記者・鄭茂憲(チョン・ムホン)をゲストに招いたトークショーが行われた。
本作は、"将軍様のハリウッドから覗いた北朝鮮!"をテーマに、現在の北朝鮮の実情に迫った野心作。北朝鮮においての映画は、国家思想を人民に定着させる重要な啓蒙ツールで、特に金正恩(キム・ジョンウン)第1書記の父・金正日(キム・ジョンイル)は大の映画好きだったことで知られる。その閉ざされた北朝鮮の映画界に、シンガポールのドキュメンタリー映像作家のジェイムス・ロンとリン・リーが、密着取材を敢行した。
野中は『シネマパラダイス★ピョンヤン』を見た感想について「北朝鮮の人たちの素顔を垣間見られた気がします。とても興味深く見ました。彼らも、我々と同じようなことで喜んだり悲しんだり涙を流したりしている。そういう人間性はいくら取り繕っても見えてくるんだなと」としみじみ語った。鄭茂憲は、本作の登場人物について「1人は、お母さんもお父さんも国内では有名な芸能人である男の子。もう1人は、ちょっと自由な女の子で、この対比が面白い」と娯楽性をほめた後「朝ごはんが撮られていることは異例です。北朝鮮の人々の素の部分がよく映し出されています」と驚きを口にした。
また、今の北朝鮮と日本の関係性について話が及ぶと、野中は「一番大切なのは、そこに住んでいる人たちのことを考えること。もう1つは歴史的な文脈を考えていくことが大切。いろんなことがあって今がある。朝鮮に2つの国があるのは、日本にも責任がある。ナショナリズムを煽るようなことではないけど、拉致とかがあって、思考停止が起こっている」と問題提起をした。鄭茂憲は「北朝鮮は、近年海外メディアに対してオープンになってきたんです。2012年、かなりの数のメディアが朝鮮に入り、取材をしました。事実を見せることによって、朝鮮のイメージも変わる。だんだん寛容にはなってきました」と、近年の状況を説明。野中は「隣の国なのに、友達がいないという異常な状態。それを当たり前だと思っていること自体が不幸なことです」と、憂いながら、トークショーを締めくくった。『シネマパラダイス★ピョンヤン』は3月より渋谷 シアター・イメージフォーラムで公開。