猫に関連した書籍のみを扱うネット書店「書肆 吾輩堂(しょし わがはいどう)」をご存知だろうか。日本初の猫専門ネット書店として2013年2月22日にオープンし、はじめは古書からスタートした品揃えも、現在は新本や猫雑貨にまで拡張している。そこで、オープンから1年を迎えた同書店店主の大久保京さんに、書店を始めた経緯などを伺ってみた。

猫専門の書店を始めた訳とは

書肆 吾輩堂は、文豪・夏目漱石の名著にちなんで名付けられた猫専門のネット書店。福岡県福岡市にオフィスを構え、2013年2月22日の猫の日にWebサイトをオープン、同年4月1日に開業している。基本的には古書店であり、商品の紹介ページは、著者や発行元、発行年度などの基本的なデータと、詳しい内容の紹介、そして傷や傷みなどの本の状態が明記されるという親切な内容だ。また、本の買い取りも行っており、同ネット書店に買い取りの受付のページも設けられている。現在は、新本や猫に関する雑貨・文具なども取り扱われていて、猫好きなら覗くだけでも楽しいネット書店だ。

photo y2 : 以下同様

なぜ、このようなネット書店を始めたのかを店主の大久保さんに尋ねてみた。「自分が猫に関する本を集めたいと思った時そのような書店がなく、『まとめて売っていれば便利なのに』と思ったためです」。当時はまだネットも普及しておらず、本を集めるのにも苦労したのだという。そして「猫の本だけに特化して、解説をつけたりお勧めをまとめたりすれば、猫好きの方にも喜んでいただけるのではないかと思い、開店に至りました」とのことだ。実際に書肆 吾輩堂では、1冊1冊に丁寧な紹介文のほか、店主自らの感想文が添えられた本まであり、猫と本に対する思い入れが伝わってくる。

店主はやっぱり猫が好き

書肆 吾輩堂を覗いていると、書店からのお知らせコンテンツ「NEWS(ニャース)」や、イメージカットなどに猫達が登場する。この猫達については「すべて当店の猫店員で路上生活から縁あって当店へ就職しました。店主の癒しや邪魔や撮影時の協力者となっています」と解説していただいた。猫店員は4名おり、プロフィールは下記の通り。

・ゴンチャロフ(17歳・オス) : 美形の最長老で主に寝たポーズのモデル。好物は猫缶(黒缶の鰹・鮪)、鰹節。呆けたふりをして何回も餌をねだる頭脳派。
・もじゃ(7歳・オス) : 銀杏のような大きくて美しい緑の眼がチャームの人懐っこいおデブさん。好物は…なんでも食べます(だからデブなのかも)。
・ちーちー(3歳・オス) : クロヒョウのようなぴかぴかした毛並と長い尻尾が自慢の黒猫。いたずらっ子。好物はいりこ。
・チロ(10カ月・メス) : 唯一の女の子。路上生活が一番長かったせいか神経質。しかし撮影には一番協力的なおしゃまさん。好物はいりこ。

このように、本のみならず猫も愛する店主は、猫の書籍の魅力について「作家たちの猫に対する思いをシンクロしながら読む喜び、『この作家が猫好きだったなんて』という意外な楽しみも猫本ならではです。また絵本には猫の優れた挿絵とお話が非常に多く、当店でも仕入れに力を入れています」と語ってくれた。また猫に対しては、詩人・ボードレールの詩を引用して思いを伝えてくれた。以下、『悪の華』より「猫たち」(阿部良雄訳)の一部抜粋。

「瞑想にふける猫たちの、気高い態度は、
寂寥の地の奥に身を伸ばした、巨大なスフィンクスの、
果てもない夢に眠り入るかと見える姿にさながら。
 
豊かさの尽きぬ彼らの腰は、魔法の花火に満ちて、
黄金の小さな粒が、細かい砂のように、
彼らの神秘な瞳に、おぼろな星とかがやく」

店主おすすめの猫書籍

最後に、店主に一番好きな猫の話・猫の本を尋ねたところ「絶版なのが残念ですが、浅田次郎さんの『民子』。現在『猫のはなし 恋猫うかれ猫はらみ猫』という本に新収録されていますが、やはり写真がついている方がぐっときます」と答えていただいた。また、オススメの猫書籍10冊を選んでいただいたので、紹介しよう。

大佛次郎『スイッチョねこ』フレーベル館 1975年
ポール・ギャリコ『ジェニィ』新潮社 1979年
澁澤龍彦『長靴をはいた猫』河出書房新社 1988年
荒木経惟『愛しのチロ』平凡社 2002年
藤田嗣治『藤田嗣治画文集 猫の本』講談社 2003年
夏目房之助他『作家の猫』平凡社 2006年
招き猫亭『猫まみれ-招き猫亭コレクション』求龍堂 2011年
夏目典子『猫をさがして-パリ20区芸術散歩』幻戯書房 2011年
金子信久『ねこと国芳』パイインターナショナル 2012年
金井美恵子『猫、そのほかの動物 (金井美恵子エッセイ・コレクション[1964-2013]2』平凡社 2013年
※以上、発行日順

オープンから1年が経った今の心境は、「全国のお客様から励ましのメールがあることや、商品到着のご丁寧な御礼と一緒にブログにUPして下さったということや、ご自分の猫の自慢話を書いてくださるお客様がいらして、本当に楽しくて嬉しくて『やっててよかった』と思います」とコメント。苦労したことについては「好きでやっているので大変だと思ったことはありません。あまりに沢山の猫本があって『どれを紹介しよう…』と悩むことはありますが」とのことで、充実した日々のようだ。