第70回ベネチア国際映画祭にて、9月7日に全国公開されるCGアニメーション映画『キャプテンハーロック』の公式記者会見が現地時間3日、イタリア・ベネチアのCasinoにて行われた。先日、スタジオジブリの宮崎駿監督が『風立ちぬ』をもって引退することが発表されたが、一方の『ハーロック』原作者・松本零士氏は、「創作に終わりはない」と現役続投を宣言した。
会場は大勢の海外プレスが詰めかけ、熱気漂う満員状態。原作者の松本氏、荒牧伸志監督、ハーロックの命をつけ狙う青年・ヤマ役の声を演じた俳優の三浦春馬が一人ずつ紹介され、大きな拍手で迎えられた。中学高校と松本氏の作品を観て育った荒巻監督は、「松本先生と私は同じ九州の福岡出身で、シンパシーもあり、先生の作品をずっと愛読していた私にとって、10代のころは松本先生自身が僕にとってのヒーローでした」と自身のルーツが松本作品にあり、「今回の仕事は、私自身が原点回帰するための仕事でもあった」とこの仕事に相当の覚悟をもって臨んだことを明かした。
また荒巻監督は、30年の時を経て『ハーロック』を新たな物語として蘇らせる構想について「松本先生の作品がもともと"堕落した地球人に対してのハーロックの存在"という世界であり、その部分も含めて、『キャプテンハーロック』を現代に新たにリブート、再誕させるためには、現代の社会に通じるテーマが必要だと思い脚本を練り上げた」と説明している。
もともと『ハーロック』という言葉は、松本氏が小さい頃に歩く時の"号令"として知られているが、松本氏は「小さい頃、自然発生的に『ハーロック! ハーロック!」と言って歩いていました。そしていずれ世界の海を自由にドクロの旗をはためかせて走る大海賊を描きたい、さらに宇宙にも行きたいと思い、そこから『キャプテンハーロック』というキャラクターが誕生しました」と、今一度『ハーロック』の誕生エピソードを話し、さらに現代にも通じる問題提起があったと続ける。
「私は、温暖化の問題や資源の掘削などで地球を痛めつけている地球人そのものの行為が地球を破壊的な状況に追い込んでいる、と少年の頃から思っていました。そこから『地球を守る立場で宇宙へ乗り出していくキャプテンハーロック』が生まれ、テーマとして繰り返し描くようになっていったのです。創作の世界に終わりはありません。これからも自分の想いや信念を一生懸命描きたい。そして子供たちや現代の人たちに訴えたい。その想いで今回の『キャプテンハーロック』のリブートに賛成したのです」
荒巻監督もそれに同調し「今、世界中で、特に日本では『少子化』『高齢化』『経済の停滞』『貧富の差』など色々な問題や矛盾が蔓延しています。それを何とか覆せないかと、反逆のヒーロー『キャプテンハーロック』に託し、それに続く若者を描くことで状況が少しでも希望に変わるんじゃないかという気持ちを作品に込めています。(そういう想いを)みなさんが感じてくれたらと思います」と、本作に込めたメッセージを伝えた。
そうして生まれ変わった『キャプテンハーロック』は、3DCGアニメーションとして注目され、本作をいち早く鑑賞したジェームズ・キャメロン監督が「もはやこれは伝説だ」と大絶賛したことも記憶に新しいが、今回の3DCG挑戦について松本氏は「創作の世界の変遷期である」と、次のように説明している。
「漫画アニメーションの世界において地球上の国境はない。国は違えど、それぞれが楽しんで観ています。(世界にむけて)話しかける言葉としても成り立つと思ったので、今回の『キャプテンハーロック』の製作にもOKを出しました。3DCGアニメーションと同じ映像を完成させるためには、今までの手で描くアニメーションでは5,000人が必要でした。この大きな時代の変わり目に遭遇したことも、とても幸せなことです。CGやネット配信など、色々な新しいシステムの時代に生きる今は、大きな第二の表現形態、"創作の世界の変遷期"です。これから先はどうなる運命か分かりませんが、今この新しい世界のスタートを切り、何とかしてみたいという信念に基づいて、『キャプテンハーロック』のような作品にトライしました」
そして「創作に終わりはない」と語る松本氏。これまで自身が描いた作品を「実は、自分のこれまでの作品全部が一つの大きな物語となっている」と表現し、「タイトルを変え、バラバラにして描いていて、最後は1つの大きな物語にしたい」と大きな構想を明かす。 そして「『銀河鉄道999』『クイーン・エメラルダス』など『キャプテンハーロック』の物語と連携して続いていく物語を描きたいですが、今描いてしまうと、カーテンコールだと思われ、アイツはそろそろお墓に……と思われてしまいそうなので今はまだ描きたくありません」とジョークを飛ばしつつも、「最後ははるか遠い世界だと信じてがんばりたいと思います。創作に終わりはありません」と、未だ枯れることのない創作意欲を明かした。
また三浦は、モーションキャプチャーで演技する難しさについて「キャラクターの動きを僕自身が演じていないということ。当時、モーションキャプチャーで演じた俳優の気持ちや間の取り方でキャラクターの口が動くので、自分が思い描くセリフまわしや、表現が難しく大変でした」と振り返り、「2年前、日本で起こった東日本大震災や、今なお世界中で続く紛争など、苦しいこと、悲しい、辛いことでどんなに心を痛めても、必ず未来に希望はある。本作には『どんなに苦しい状況下におかれても前だけを向いていよう』という強いメッセージが込められていると思います」と、本作への想いを語っていた。
最後に松本氏は「漫画の世界には国境はありません。地球人として、全人類の立場でこの物語を考えていきました。創作者、作家として夢の10分の1しかまだ自分の想いを描いていません。『人が涙を流すのは恥ではない。諦めるのが恥である』涙を流しても歯を食いしばってがんばるんだ、と、若い世代に伝えていきたいです。若者たちを励ますために、日本だけでなく、地球上の全若者に伝えるために、この仕事を続けています」と、若者たちにエールを送り、会見を締めくくった。
(c)LEIJI MATSUMOTO/CAPTAIN HARLOCK Film Partners