日本三大ご当地ラーメンといえば、札幌・博多・喜多方。これらを筆頭に、日本各地に様々なご当地ラーメンが存在する。近畿地方では、和歌山ラーメンや京都ラーメンが比較的知られているところだ。しかし、大阪のご当地ラーメンというのはあまり聞いたことがない。
これっといった型が見つからない……
大阪にも「神座(かむくら)」など人気ラーメン店はいくつかある。しかし、大阪におけるラーメン店は、こってり豚骨系であったり、あっさり系のしょう油や塩であったりと、メインとするスープは様々。「大阪を代表するラーメンはこれ」と言える明確な傾向が見当たらないのだ。
しかし、あえて挙げるなら「高井田系ラーメン」と呼ばれるものが存在する。高井田とは大阪府東大阪市にある地区。この高井田地区と、隣接する大阪市東成区がこのラーメンの中心地であるため、このように呼ばれている。その高井田系ラーメンとは、どのようなラーメンなのだろうか?
濃厚じょう油スープに極太麺
高井田系ラーメン発祥の屋台の系統と言われている、いわば“元祖高井田系ラーメン”店が大阪市東成区にある昭和28年(1953)創業の「光洋軒」。ここの「中華そば」(500円)は、そのスープの色の濃さに、“関西の味つけは薄味が基本”という固定概念を大きく覆される。
そして麺の太さも驚き。ちょうどうどんの細麺と同じくらいの極太ストレート麺である。この、“濃厚じょう油スープ”に“極太ストレート麺”が高井田系ラーメンの大きな特徴だ。ラーメンというより“昔ながらの中華そば”と言った方がしっくりくるラーメンで、実際、メニューにも「ラーメン」ではなく「中華そば」と表記しているお店が多い。
●information
光洋軒
大阪市東成区深江南3-20-14
町工場で働く人の空腹を満たす存在
大阪市の東部、及び東大阪市は昔から町工場が多い地域。そこで汗水流し、身体が塩分を欲している工場労働者には、この濃厚じょう油味が打ってつけだったわけだ。さらに、モチモチとして食べ応えがあり腹持ちのよい極太麺、そして値段の安さも、工場労働者にとって有り難いものだった。
また、高井田系ラーメンのお店は朝8時~など開店時間が早いのも特徴で、「おはようラーメン」とか「朝ラー」などとも呼ばれている。これも、夜勤明けの工場労働者にラーメンを提供していたのが始まりと言われており、高井田系ラーメンは地元町工場の工員さんたちの腹を満たす存在として親しまれてきたのである。
「光洋軒」から東に数十メートル行ったところにある「住吉」というお店も、“濃厚じょう油スープ”&“極太麺”の元祖高井田系ラーメンを代表するお店。こちらの「中華そば」(500円)はスープの色が光洋軒ほどは黒くなく、つまりほんの少ししょう油の濃度が薄めになっており、こちらを好む人も多い(とは言っても十分濃厚だが)。
●information
住吉
大阪市東成区深江南3-20-8
大阪で高井田系の知名度を上げたラーメン店
「光洋軒」と「住吉」があくまでも地元密着であるのに対し、高井田系ラーメンの知名度を上げる役割を果たしたのが、「麺屋7.5Hz」という変わった名前のお店。フランチャイズ展開で大阪市の梅田や天王寺、さらには兵庫県西宮市などにも出店しており、これによって高井田地区周辺以外の関西人にとっても高井田系ラーメンが身近なものとなった。
ちなみに、7.5Hzとは生まれたばかりの赤ん坊の脳波の数値だそうで、赤ん坊のように悩みも雑念もないニュートラルな状態でありたい、という意味を込めて店名にしたそうだ。
この他、高井田系をより進化させた“大阪ブラック”で有名な「金久右衛門」や、無化調の高井田系ラーメンがいただける「源さん」なども、人気の高井田系ラーメン店として挙げられる。
●information
源さん
大阪府大阪市東成区玉津1-1-36
大阪は人口の割にラーメン店の数が少なく、都道府県別人口10万人当たりのラーメン店数(2012年タウンページ登録数)でみると、1,039軒と全国でも最も低い部類に属する。
そんな「ラーメン不毛地帯」と言われる大阪で、これだけはっきりとした特徴を持つラーメンを提供するお店がある一定数そろっているのだから、「高井田系ラーメンこそ大阪のご当地ラーメンである」と言ってもいいのではないだろうか。