神戸大学は8月1日、明石市立市民病院との共同研究により、C型肝炎ウイルス(HCV)のコアタンパク質の70位のアミノ酸変異、およびNS3タンパク質の1082位と1112位のダブル変異を組み合わせることにより、「原発性肝細胞がん(肝臓がん)」発症と密接に相関するHCV株を同定することに成功したと発表した。

成果は、神大大学院 医学研究科・微生物感染症講座微生物学分野の堀田博教授、明石市立市民病院 肝臓内科の進藤道子医師(現在は退職)らの研究チームによるもの。研究の詳細な内容は、米国肝臓病学会が発行する「Hepatology」8月号に掲載された。

HCVは持続感染することが多く、慢性肝炎、肝硬変を引き起こす。肝硬変になると、適切に治療しない場合には1年に4~7%の割合で肝臓がんを発症するという。現在、日本には約150万人のHCV持続感染患者が存在し、毎年、約1万2000人がHCVによる肝硬変で、また約2万5000人がHCVによる肝臓がんで亡くなっている。

HCVによるC型慢性肝炎の治療に用いられているのが、「ペグインターフェロン」と「リバビリン」の併用療法だ。HCVは遺伝子型(ジェノタイプ)の違いによりインターフェロン治療効果が異なることが知られており、インターフェロンが効きにくい「HCVジェノタイプ1b」(日本では全体の70%を占める)では、上記の併用療法を48週間(約1年間)続けても、やっと半数が治癒する程度だ。一方、「HCVジェノタイプ2a」や同「2b」では、24週間の治療で80%以上が治癒する。

ただし最近になり、HCVが持つタンパク質分解酵素(プロテアーゼ)の働きを抑える「プロテアーゼインヒビター」と呼ばれる薬剤を加えた3者併用療法が認可され、これにより、HCVジェノタイプ1bの場合でも、80%近い治癒率が得られるようにはなった。

また、前述したように無治療の場合や治療してもウイルスを排除できない場合は、かなり高率に肝臓がんが発症するが、どの患者でもどのHCVでも同じ頻度で肝臓がんを引き起こす訳ではない。実際に、15年以上経過しても肝臓がんがまったく発症しない患者がいる一方で、わずか数年間の間に肝臓がんで亡くなってしまう患者もいる。一般に、高齢の患者は肝臓がんが発症しやすいことが臨床的に知られているが、高齢者でも肝臓がんが発症しない患者もいるという具合だ。また、肝臓の線維化が強い(肝硬変に近い)患者も肝臓がんが発症しやすいと考えられている。

今回、堀田教授らの研究チームは、HCVのコアタンパク質やNS3タンパク質の特定の変異が肝がん発症に密接に関与することを、10年以上に及ぶ患者の追跡調査および多数のHCV分離株の詳細な解析により解明した。具体的には、コアタンパク質の70位が「グルタミン(Gln)」であるHCV変異株、およびNS3タンパク質の1082位が「チロシン(Tyr)」、1112位がグルタミン(Gln)であるHCV変異株は、そうでないHCV株に比べると有意に肝臓がんを発症しやすいということがわかったのである。

もちろん、コアタンパク質の変異とNS3タンパク質の変異を併せ持つHCV変異株も肝臓がんを発症しやすい。一方、コアタンパク質にもNS3タンパク質にも変異が見られないHCV株に感染している患者は長期間経過観察しても肝臓がんの発症率は明らかに低いものだった。このように、コアタンパク質の70位の変異、あるいはNS3タンパク質の1082位と1112位のダブル変異を持つHCVは高発がん性ウイルスであると考えられるという。

まずは、このようなHCV株に感染しているかどうかについて検査し、もし高発がん性HCV株に感染していることがわかった場合には、積極的にインターフェロンとリバビリンの2者併用療法、または、それにプロテアーゼインヒビターを加えた3者併用療法を受け、HCVを排除することによって、肝臓がんの発症リスクをできるだけ低下させることが必要になるとした。

また今回の研究成果により、HCVの肝がん発症リスクがより正確にわかるようになり、肝がん発症を予防するためのより適切な治療方針の決定や、肝がんをより早期に発見するための検査方針の決定に役立つものと思われるとしている。