海洋研究開発機構(以下、JAMSTEC)とニコニコ生放送のコラボレーション企画として、有人潜水調査船「しんかい6500」による調査潜航の様子を生中継する番組が、動画サービス「ニコニコ生放送」にて放送された。番組は6月22日20時30分から23日8時頃まで放送され、来場者数約30万人、コメント数は約50万件を記録するなど大きな注目を集めた。

「しんかい6500」(c) JAMSTEC

今回の探査の目的は「400℃の環境でも生物は生息できるのか、極限環境における生き残り戦略を明らかにすること」。この試みでは、"世界初"となる以下2つのポイントが達成されたという。

1.世界最深の深海熱水噴出域での有人科学探査(※無人科学探査は以前に行われている)
2.深海での有人科学探査をリアルタイムでインターネット生中継

今回の中継システムでは、JAMSTECが直径0.9mmの光ファイバーケーブルを「しんかい6500」に結びつけて中継する映像を、衛星通信を使用して、ニコニコ生放送にてインターネット配信。国内唯一の有人潜水調査船である「しんかい6500」が、地熱で熱せられた100度を超える熱水の噴出する熱水噴出孔を調査する様子を伝えた。また、光ファイバー切断後は、音波を通じて中継を継続させたという。

今回の中継体制システム

番組では、6月22日23時過ぎより、支援母船「よこすか」から着水・潜水する「しんかい6500」の様子や、毎分約40メートルで下降していく「しんかい6500」から見える海中の様子などを放送。とりわけ"トワイライトゾーン"と呼ばれる、地上の光が消え暗闇へと変わる映像が映し出されると、視聴者からは「すげぇえええええ」「真っ暗だ~」といった驚きのコメントが流れた。

そして23日1時頃、ついに深海4,900メートル付近で地底の様子がカメラでとらえられた。「これは凄いよ」「リアルタイムで見られていることに感動」といった歓喜のコメントで視聴画面が覆い尽くされる中、「しんかい6500」は無事に深海着底に成功した。

トワイライトゾーン到達の瞬間

海底到達時

着底後、最初に遭遇した生物はイソギンチャクだった。その後、"チムニー"と呼ばれる高温の熱水が噴き出す煙突状の噴出孔が発見され、黒い熱水が噴き出すブラックスモーカーや、チムニーの外壁に生息する無数のエビやイソギンチャクが映し出された。研究のため、これらの生物が調査船に搭載されたスラープガン等で採集された際は、その光景に興奮した視聴者から「逃げて!!」「吸い込まれるww」といった多くのコメントが寄せられていた。

イソギンチャク採集の様子

そして23日(日)5時過ぎには、探査を終えた「しんかい6500」の引き上げが始まり、7時30分頃に支援母船「よこすか」へ無事帰還した。同調査船から出てくる潜航者たちがカメラに映ると「おかえりぃいいいい」といった賛称のコメントが画面を覆い尽くしていた。

帰還した「しんかい6500」(左)と、同調査船から出てくる潜航者・高井研氏(右)

今回の取り組みに関して、「しんかい6500」の潜航者である高井研氏(研究者 JAMSTEC深海・地殻内生物圏研究プログラムディレクター)は帰還後、「僕の中では大体成功だと思います。これからまた今日のサンプルをもとに研究が始まります。これらの映像をみて皆さんに何かを感じてもらえたらいいなと思っています」とコメントした。

また、スタジオにて中継を見守っていた中村謙太郎氏(JAMSTECシステム地球ラブプレカンブリアンエコシステムラボユニット研究員)も、「研究者とパイロットのものだけだった深海探査が世界の何十万の人と分かち合えたことが非常に良かった」と語るなど、今回の中継が深海探査の感動を多くの人と共有するための新たな出発点となったことが実感させられた。

発砲スチロール製のニコニコテレビちゃん。左が潜航前の姿。帰還後は驚くほど小さく押し潰されてしまっている

(C)JAMSTEC