いま脚光を浴びている「四日市とんてき」とは如何なるとんてきか?

三重県の四日市市で昔から愛されているB級グルメ「四日市とんてき」が、いま脚光を浴びている。60年ほど前、四日市市の西新地にあった「来来憲」という中華料理店の看板メニューだったものだ。それが他の中華料理店や肉料理専門店に広がり、四日市のローカルフードとして認知されていった。

にんにくと千切りキャベツは必須

今では「四日市とんてき協会」なる団体も組織され、全国に普及を狙っている。もっとも、とんてきという料理自体は日本全国に存在する。では、四日市とんてきのオリジナリティとは何か? 店により様々だが、四日市とんてき協会では、以下の4項目を定義している。

  1. ソテーした厚切りの豚肉であること。
  2. 黒っぽい色の味の濃いソースが絡められていること。
  3. にんにくが添えられていること。
  4. 付け合わせは千切りキャベツが主であること。

この4項目を並べただけでも、かなりヘビーな「男メシ」系のフードだと想像できる。そして実際、その通りなのだ。この四日市とんてき、「がっつり喰うぞ!  栄養つけるぞ!!」と気合いを入れてこそ食べられるガツ飯なのだ。

ちなみに現在、「四日市とんてき協会」加盟店は46軒(2012年に集計のデータ)。しかし実際には、同協会に加盟していない店でとんてきを提供している店もある。

名古屋の喫茶店「喫茶クルー」。実はここのとんてきが絶品と評判なのである!

とんてきのスタイルは、一枚肉に切れ込みを入れた「グローブ状」が主流だが、ぶつ切りで提供する店もある。四日市とんてきは店ごとの進化を遂げ、四日市以外の地にも根付きつつある。今回は、あえて本場四日市ではなく名古屋でうまいと評判の「喫茶クルー」に行ってみた。

ソースは意外にあっさり、キャベツはこんもり

この店、店名の通り喫茶店なんだが、実は料理のポテンシャルがすご~く高い。しかも、がっつり系の。自慢のとんてき定食は300グラムが1,300円、200グラムが1,000円。ここはやはり、300グラムをオーダーしたい!

実はこの店のとんてき、基本は鉄板で提供される。しかし今回はあえて「四日市風でね!」とオーダーした。そうお願いすれば、鉄板ではなく皿盛りで提供してくれるのだ。

マンガを読みながら待つこと10分。目の前に登場したそれは、圧倒的な存在感の「ザ・肉料理」だった。肉はこま切れでグローブ型ではないけれど、山盛り状態がかえってインパクトを高めている。

さて肝心の肉はというと、これが質感満点で柔らかくパサつかない。濃厚そうに見えたソースは意外とあっさり。甘くてニンニクの風味がきいている。わずかなとろみがあり、肉に絡みついてソースがそのまま口に運ばれる。ニンニクも粒ごとゴロっと入っているので、豚肉のビタミン効果と合わせ、疲労回復とスタミナアップにはもってこいだろう。

疲労回復とスタミナアップにはもってこいのとんてき。しょう油ベースのソースも美味だ

そして300グラムのトンテキに対抗するように、ご飯も「丼で出てくる」のには驚いた。もちろんご飯との相性はハンパなく良い。

「うちのとんてきのソースは、しょう油ベースだからね。だから飽きがこないし、胸焼けもしないよ」そうニカッと笑うのはマスターの今井桂治さん。はっきり言ってコワモテ。しかし話せば「1を聞けば10返してくれる」魅力的な人物だ。

丁寧に説明をしてくれた、マスターの今井桂治さん

四日市でとんてきを食べ歩き、自分なりの改良を加えてメニューに出したのが2年前。それが評判になり、「店の看板にも、『トンテキのうまい店』って書いたんだよ」と笑う。

名古屋ではしょう油ベースが主流

ちなみに、名古屋にはもともととんてき文化はない。四日市から名古屋へ進出した有名店も数軒あるが、現在ではほとんどがつぶれている状態。理由は定かではないが、ソースベースの四日市とんてきが名古屋の人の口に合わなかったことも一因かと思われる(ただし、これはあくまでも筆者の推定)。だからこそ、しょう油ベースで仕上げたクルーのとんてきが評判を呼んでいるのかもしれない。

作り方は企業秘密というソースは継ぎ足しでコクを出し、「3週間くらい寝かせたくらいが一番ウマい!」そうだ。本場四日市と違ってラードを使わないので、「冷めても固くならない。だからテイクアウトも人気だよ」とのこと。

ちなみにこの店、喫茶店だけあって朝7時から夜11時まで営業している。この長時間をバリバリ仕事するマスターの元気の源は、やっぱりこの「とんてき」かもしれない。

こちらが自慢のとんてき。ちなみに、持ち帰りもできる

考えてみると、四日市エリアは一大工業地帯。いわゆる力仕事の男たちがわんさか働いて日本の高度成長期を支えていた。とんてきがそのエネルギー源だったことは想像に難くない。元気なニッポンのエネルギー源として、とんてきをがっつり食べようじゃないか! なお、ビールとの相性もバツグン。「とんてきがあれば、ビールがいくらでも飲めちゃう。こりゃ悪魔の食べ物だね、ハッハッハ!」と笑うマスター。

ちなみにこの店、昼3時からはカラオケも歌える。とんてきとビールにカラオケという極上の楽しみをここで味わってしまうと、もう名古屋を離れられなくなるかもしれない……。

●information
喫茶クルー
名古屋市中村区権現通4-8-2 今西1階