九州の中でも控えめでおっとりした県民性だと言われる佐賀県人。そんな佐賀県がくまモン人気に影響を受けたのか、独自のゆるキャラを生み出し、そのキャラクターを駆使してご当地グルメを大々的にアピールしているという。早速突撃取材を試みた。
「唐ワンくん」が積極PRする「唐ワン伽哩(カリー)」とは?
そのキャラがいる場所は、佐賀県唐津(からつ)市。そう! 佐賀市の西北に位置し、あの伝統工芸品「唐津焼」で有名な焼き物の町である。この町の頭文字をとって名付けられたのが、唐津城のイメージキャラクター「唐ワンくん」。唐津を一つにというスローガンを体現して、「唐ワン(一)」というネーミングという。
この唐ワンくん、唐津城築城400年を記念して、2008年に誕生した。熊本県のくまモンのようなインパクトはないが、優しい笑顔が印象的な犬のキャラクター。きりりとした紫のかぶとをかぶっているのも特徴で、しつこさがなく上品な雰囲気のキャラクターである。ちなみに、かぶとにもいわれがある。唐津藩最後の藩主、小笠原長行(ながみち)のかぶとなのだ。
今、このゆるキャラ「唐ワンくん」が熱烈にPRしているのが、唐津市の「唐ワン伽哩(カリー)」だ。佐賀県のご当地グルメといえば、シシリアン・ライスくらいしかなかった。そこで、この唐ワン君を旗振り役に唐津市が街をあげて応援しているのが、この唐津市の食材を駆使したオリジナルカレーなのだ。
それにしても一体なぜ唐津焼のふるさとで、カレーなのか? どう考えても焼き物とカレーは結びつかないのだが、実は佐賀県は、一世帯あたりのカレールゥ消費量が全国1位だというのだ。
この2008年度の総務省家計調査の結果を受け、唐津市では「唐ワン伽哩」企画を立案。日本で初めてカレーを食べたとされる教育者・山川健次郎(1854年~1931年)が、唐津出身の建築家・辰野金吾の義弟というご縁もあり、開発を進めてきたらしい。
ゆるい縛りで各店の個性を出す「唐ワン伽哩」の魅力
「唐ワン伽哩」を提供している市内の飲食店は、目印に黄色ののぼり旗を掲げている。店のカレーが「唐ワン伽哩」であるか否かの判断基準は、「カレーの中に1品以上唐津産の食材を入れること」などの3カ条が守られているかどうか。
登録料3,000円を支払うと、販促ツール(=のぼり旗×1本、ランチョンマット×100枚、卓上POP×5枚)をもらえるので、それを使って各点イメージを共有してこのご当地グルメをPRしていくのだ。
つまり広告フレームさえ統一すれば、あとは各店舗が自由にアイデアカレーを「唐ワン伽哩」として展開できる。この、ゆるい縛りが実に佐賀県らしい。参加第1号店として有名な、同市新興(しんこう)町の「檸檬樹(れもんじゅ)」を訪れてみた。
この店では、パンを器にしたカレードリア(800円)で、焼きカレーやキーマカレー、カレーパン など多彩な味わいが楽しめる。早速、ユニークさで異彩を放つカレードリアをオーダーしてみた。
字面を追うと、食パンの上にカレーが塗られているだけだと思うかもしれない。しかし違うのだ。焼きたての食パンの中央がくりぬかれており、カレードリアを盛る器として改造されているのだ。その焼きパンで作った入れ物の中に、あつあつのドリアがずっしりと盛り付けられている。
つまり、器まで食べられるカレー。初の体験である。オーナーは「唐津の食材にこだわりました。うちの料理が地域活性化に役立てられれば」と話す。店舗には「唐ワン伽哩3カ条」なる、事務局のただし書きが飾られていた。読んで思わず、ほのぼのとする、3カ条である。
一 カレーライスの他、麺やパンにするも良し!
二 必ず、一品以上、唐津市の食材を入れるべし!
三 唐津ならではの、店主のこだわりを入れるべし!
この優しさ。ストイックだが決してヒステリックにならないただし書きに、佐賀県らしいがにじみ出ている。地域の人々への愛情あふれる3カ条といえよう。このゆるーい縛りでそれぞれの店舗の魅力を最大限に発揮した「唐ワン伽哩」、唐津へいらした際にはぜひご賞味あれ!
●information
檸檬樹(れもんじゅ)
唐津市新興町2936-7