ドキュメンタリーチャンネル「ディスカバリーチャンネル」は、テレビ史上初となるジェット旅客機墜落実験を行なった新番組『好奇心の扉:航空機事故は解明できるのか?』を11月6日(22:00~)に放送する。

実験は危険との隣り合わせ。UAV(無人飛行小型カメラ)で確認すると、墜落後もエンジンの1つがフル稼動していた。燃料経路に損傷があれば機体が炎上する危険性。タンクには2 時間分の燃料が積まれていた

これまでは事故後のデータしかなかったために、推測しかできなかった墜落のメカニズム。番組では、そのデータを得ることにより、航空機の安全性を高めることを目的に、ジェット旅客機「ボーイング727」を、メキシコのソノラ砂漠に墜落させるクラッシュテストを行った。この企画のために、米国防省のミサイル計画従事者や元米海軍特殊部隊出身者などを含む400名の国際チームを結成。4年の歳月と数億円の費用をかけようやく実現に至った。

メキシコの空港を飛び立ったボーイング727に搭乗した人数は3名(+それぞれのスカイダイバーを含み合計6名)。航空交通管制官は通常であれば「安全なフライトを」と言うところ、迷った挙句に「さよなら」とボーイング727を送り出した。その後、墜落の30分前にメインパイロット1名を残して、副操縦士と航空機関士がそれぞれパラシュートで脱出。最後の1名(+スカイダイバーで合計2名)となったパイロットは、追跡飛行していたセスナ機による遠隔操作に操縦を交代した。元米海軍戦闘機パイロットのチップ・シャンリ少佐は、遠隔操作のリモコンを見て「これって、模型飛行機を操縦するヤツじゃ…」と疑問を投げかけると、設計技師のバーニー・バーネットは「プラモの店で買った送信機です」とあっけらかん。周囲の心配をよそに、パイロットは墜落3分前に脱出し、遠隔操作で所定の位置に墜落させた。

機内には正確なデータを得るために、32カ所のセンサーが付いた、1体約120万円のダミー人形を用意。各パーツごとに精巧に作られているため、どこに衝撃を受けたかを読み取ることができる。実験の結果、死亡する確率が最も高い座席は機首部分(パイロットルームと前から7列目まで)で、生き残る可能性がある座席は最後列から5列目まで。緊急着陸時の姿勢としてはいずれも怪我は免れないものの、現在、世界の航空会社が推奨している「頭を守り衝撃に備える姿勢」が最も効果的と判断された。

墜落の状況、機体の種類などによって衝撃が変わるので、今回の実験結果が他のケースにも有効とは一概には言えない。ちなみに、先進国の飛行機事故により死亡する確率は、およそ1,400万分の1。これは、3万8,000年毎日飛行機に乗って、1度遭遇するくらいの確率である。実験を終え、航空機墜落現場調査員のアン・エヴァンズはこう言い添えた。「飛行機に乗るたびに墜落の心配をすることはありません」。

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