第一生命経済研究所は8日、大学院卒業者の初任給について分析した「マクロ経済分析レポート」を発表した。同レポートは、同社経済調査部副主任エコノミストの鈴木将之氏によるもの。
厚生労働省「賃金構造基本統計調査」によると、2011年の女性院卒者の平均初任給は23万7,300円となり、男性院卒者の23万3,900円を3,400円上回った。女性院卒者の初任給が、男性院卒者の初任給を上回るのは4年ぶり。同レポートは、他の学歴では男性の初任給が女性を上回る状況が30年近く続く中で、院卒での男女の動きの相違が顕著だと指摘している。
なぜ、院卒では初任給の男女差が小さいのか。その背景を院卒の就業状況から見てみると、人数では女性は1.3万人と、男性の3.9万人の約3分の1(文部科学省「学校基本調査」)の規模であるものの、男性は工学や理学などに専攻が偏っているのに対し、女性は専攻が多岐にわたっていることが確認できたという。
また、企業規模から院卒の初任給を見た場合、大企業、中堅企業ともに、女性の方が男性よりも初任給が高いことが判明。大企業では女性24万5,900円、男性23万3,900円、中堅企業では女性23万8,100円、男性23万3,900円と、ともに女性が上回っている。
産業別の初任給を見ると、男性院卒者の59.2%を採用している大企業採用の内訳は、上位3産業は製造業30.9%(初任給22万7,500円)、情報通信業11.0%(同25万9,700円)、学術研究6.4%(同22万9,200円)と製造業が過半数を占め、このうち男性の平均初任給を上回ったのは情報通信業のみだった。
また、男性院卒者の35.4%を占める中堅企業の上位3産業では、製造業14.1%(同21万8,600円)、学術研究8.7%(同27万1,000円)、情報通信業6.7%(同24万2,400円)と、学術研究、情報通信業が平均を上回った。これらのことから、男性院卒者の約3割を採用している大企業製造業の初任給が低いことが、平均初任給を押し下げていると考えられる。
一方、女性院卒者については、全体の47.2%を採用している大企業採用の内訳は、製造業13.1%(同23万100円)、情報通信11.7%(27万7,500円)、卸売・小売業8.8%(25万6,000円)、学術研究4.0%(22万5,700円)、医療・福祉3.4%(22万7,400円)と、男性に比べて産業が分散していることが分かった。製造業の初任給が男性より高くなっていることも特徴だ。
また、女性院卒者の42.3%を占める中堅企業では、製造業9.2%(21万5,500円)、学術研究13.5%(27万1,700円)、医療・福祉10.2%(23万9,600円)と、学術研究や医療・福祉では大企業よりも初任給が高い傾向にあることが判明。以上から、女性の採用が比較的多い大企業製造業や情報通信業などの中堅企業において、初任給が相対的に高い傾向にあることが、女性の平均初任給を押し上げる理由となっていると見られる。
同レポートは、「女性院卒者の平均初任給の動きが他の学歴の女性に比べて目立つということは、他では女性の労働力が必ずしも十分に評価されていない可能性が示唆される」と指摘。顕在化していない女性の活躍が今後の課題だとしている。
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