名古屋大学(名大)は3月7日、ストレスが糖代謝異常、血栓症を惹起(じゃっき)するメカニズムの一因として、メタボリック症候群と同様に脂肪の炎症が関与することを明らかにしたと発表した。成果は、名大大学院医学系研究科循環器内科学・名大医学部附属病院検査部の竹下享典講師、同循環器内科学の室原豊明教授らの研究チームによるもので、詳細内研究内容は米科学誌「Diabetes」電子版に現地時間3月6日に掲載された。

現代社会を特徴づけるものの1つに、社会に蔓延するストレスがある。現代人の日々の生活は、ストレスを切り離して考えることはできない。一方、ストレスは、"病は気から"といわれるぐらい、さまざまな疾患の原因とみなされてきた。

実際、地震などの災害が起こった地域では虚血性心疾患が増加すること、夜勤などのストレスの高い労働者において、糖尿病などのメタボリック症候群の罹患率が高いこと、メタボリック症候群の患者において虚血性心疾患が増加することが知られている。

密接な関連が認められるストレスとメタボリック症候群であるが、両者を結び付ける病態のメカニズムは明らかにはなっていない。さらに、ストレスは血栓症や生活習慣病の誘因ともされているが、実はそれらの機序の多くも明らかになっていないのである。そこで、研究チームは以下のような研究を行い、成果を得た。

マウスに心理的ストレスを1日2時間、トータルで2週間にわたって及ぼすと、脂肪組織は脂肪分解により萎縮し、「血中遊離脂肪酸」の増加が認められた。ストレスが交感神経やストレスホルモンの活性化によって内臓脂肪を分解し、血中遊離脂肪酸の増加を促進させて、内臓脂肪組織の炎症を惹起することがわかったのである。

脂肪組織では炎症細胞浸潤が増加し、熱ショックタンパク質、炎症性サイトカインである「TNF-alpha」、「IL-6」、炎症性ケモカインである「単球走化性タンパク質-1(MCP-1)」の脂肪における発現が増加し、それぞれ血中濃度も増加。

そしてストレス後には、血栓形成傾向(凝固を促進させる組織因子「プラスミノーゲン阻害因子-1(PAI-1)」の発現増加)となり、インスリン抵抗性の増悪も認められた次第だ。

そこで、MCP-1の中和抗体、あるいはMCP-1の働きをブロックするタンパク質「7ND」を過剰発現する遺伝子を導入した脂肪幹細胞でマウスを治療したところ、脂肪炎症は有意に抑制された。その結果として、血栓形成傾向とインスリン感受性が改善されたのである。

今回の結果により、ストレスは、肥満個体におけるメタボリック症候群と同様の病態を引き起こすと考えられるに至ったというわけだ。

研究グループは、今後、ストレスが引き起こす病態の解析がさらに進められ、"ストレス関連疾患"の抗炎症治療が開発されることが期待されるとコメント。実地臨床においても、ストレスがメタボリック・ドミノの1ピースとして見直されていくことを期待したいとした。

脂肪幹細胞は、遺伝子治療のベクターとしても有効であると考えられ、細胞治療と遺伝子治療のハイブリッド治療につながっていくことが期待されるとも述べている。