このごろ医療保険の広告などで"先進医療"という言葉をよく見かけます。「先進医療を受けると自己負担額が数百万円になるものもあるので、医療保険に先進医療特約をつけておくと安心」といわれますが、先進医療とはいったいどのようなものなのでしょうか。そして、先進医療特約ってどの程度必要なのでしょうか。今回は気になる“先進医療”について探ってみましょう。

先進医療を受けると費用は全額自己負担だが…

ご存じのように、日本の国民はすべて何らかの公的な健康保険に加入しているので、病気やケガで入院したり通院したりして治療を受けた場合、窓口で支払うのは実際にかかった医療費の3割ですみます(小学生~69歳まで。小学生以下は2割、70歳以上の人は3割または1割)。この場合、対象となるのは保険診療の対象である治療、よくいうところの「保険がきく」治療です。

一方、先進医療というのは、厚生労働大臣が定めた高度な医療技術を用いた治療で、保険診療の対象とするかどうか検討中のものを指します。したがって、今のところ保険の対象にはなっていません。そのため、先進医療を受けた場合は、その部分にかかる医療費が全額自己負担となります。

先進医療と定められたものは、2011年10月1日現在で94種類あります。このうち、固形がんに対する重粒子線治療や陽子線治療を受けると、250万から300万円以上の費用がかかります。

こうした費用負担に備えるのが先進医療特約です。民間の医療保険に加入してこの特約をつけておくと、先進医療を受けたときに給付金が受け取れるので、お金の心配をせずに治療に専念できるというわけです。

とはいえ、先進医療がすべて高額というわけではありません。多くは100万円以下で、中には数万円から十数万円ですむものもあります。また、重粒子線や陽子線による治療はすべてのがんに有効というわけではありません。さらに、今は先進医療であっても将来的に健康診療の対象になるものもあれば、新しく先進治療と認められるものもあり、先進医療の種類は流動的です。

必要性は低いが保険料はごくわずか

こうしたことを考え合わせると、先進医療を受ける確率は高いとはいえず、仮に受けたとしても、それによって300万円以上の費用負担が生じる可能性も実際にはかなり低いと考えられます。それに加えて、先進医療特約は当然のことながら先進医療を受けたときしか給付金が受け取れませんから、それよりも、どんな目的にも使える貯蓄で備えるほうがリーズナブルです。

ただ、先進医療特約の保険料は、年齢性別に関係なく月100円前後です(ということは、保険会社が給付金を支払う確率がそれだけ低いということです)。

ですから、現在加入している医療保険に先進医療特約がついていれば、少ない保険料で万が一の大きな費用負担に備えられるというメリットはあります。また、加入している医療保険に先進医療保険がついていなかった場合、100円程度でつけられるなら、つけておいたほうが安心かもしれません。

でももし、「今加入している医療保険には先進医療特約がついていない(あるいはつけられない)から、解約して新しく医療保険に入り直しましょう」と勧められたら、それは要注意。保障の内容が同じなら、新規に加入すると年齢が上がっているぶん、保険料が高くなるからです。アップする保険料の額が先進医療特約の保険料より高ければ、そこまでして先進医療特約にこだわる必要性はありません。

保障の中身は確認が必要

先進医療特約の保障内容をもう少し詳しく見てみると、先進医療による治療を受けた場合に、その技術料相当額を給付金として支払うというのが一般的です。給付金の上限額は保険会社によって異なり、1回あたり、50万円、100万円、700万円、1,000万円、2,000万円などとなっています。

先進医療は受けられる医療機関が限られていることから、治療を受ける際にかかる宿泊費を支払うタイプや、宿泊費・交通費などに充てられるよう5万円あるいは10万円の一時金を支払うタイプもあります。

限度額が700万円以上なら、今のところどんな先進医療を受けても対応できますが、50万円あるいは100万円だと、給付金だけでは費用がまかないきれないケースも出てきます。先進医療特約をつけている場合は、それだけで安心してしまわないで、保障内容をしっかりと把握しておくことが大切です。

がん保険に先進医療特約がついている場合は、がんに対する先進医療だけが給付金支払いの対象である点にも注意してください。

執筆者プロフィール : 馬養 雅子(まがい まさこ)

ファイナンシャルプランナー(CFP認定者)、一級ファイナンシャルプランニング技能士。金融商品や資産運用などに関する記事を新聞・雑誌等に多数執筆しているほか、マネーに関する講演や個人向けコンサルティングを行っている。「図解 初めての人の株入門」(西東社)、「キチンとわかる外国為替と外貨取引」(TAC出版)など著書多数。