北海道大学(北大)などによる研究グループは、細胞膜を形成するマイクロドメインの主要構成脂質の1つ「スフィンゴミエリン」の合成酵素(SMS2)が脂質マイクロドメインの構造/機能制御を介して脂肪肝、肥満、II型糖尿病などのメタボリックシンドロームの発症に関与することを発見した。この発見により、これまでのコレステロール合成制御とは異なった作用メカニズムで、こうした疾患に対する治療戦略を提案できるようになる可能性が出てきた。
同成果は、北大先端生命科学研究院附属次世代ポストゲノム研究センターの光武進氏、座間宏太氏、横田はづき氏、五十嵐靖之氏と、塩野義製薬のシオノギ創薬イノベーションセンターの吉田哲也氏、田中美樹氏、三井優氏、田中嘉一氏、武本浩氏、および岡崎俊郎鳥取大学教授、国立長寿医療研究センターの渡辺研室長などによるもので、アメリカ生化学会誌「The Journal of Biological Chemistry」に掲載された。
日本でもメタボリックシンドロームとその予備軍は増え続けているが、その治療薬としてはコレステロール合成阻害剤が用いられているものの、それとは異なる作用機序を持つ予防戦略や治療戦略の開発も求められていた。
同研究グループは、長年にわたりスフィンゴ脂質代謝/合成酵素の研究を行ってきており、そうして蓄積したスフィンゴ脂質研究に関する知見と、遺伝子欠損マウスや遺伝子欠損細胞を用いた実験を融合させることで、今回、細胞膜脂質マイクロドメインにおけるスフィンゴミエリン合成酵素(SMS2)と脂肪肝、肥満、糖尿病との関係を、細胞レベルから個体レベルまで明らかにした。
実験では、SMS2欠損マウスでは、高脂肪食誘導性の肥満、脂肪肝、インスリン抵抗性に対して抵抗性が示されたが、そのメカニズムとして、SMS2欠損により脂質マイクロドメインに存在する脂肪酸や酸化リポタンパク質の受容体の機能が抑えられていることが示唆された。
この結果は、SMS2が細胞膜上でスフィンゴミエリンの合成を行うことで、脂質マイクロドメインの構造を変化させ、脂質マイクロドメインに存在するたんぱく質の機能制御を行っているというこれまで確認されてこなかった細胞機能制御機構の存在を示唆するもの。脂質マイクロドメインは、細胞膜を介した物質の取り込み/放出や、情報交換に重要な働きをしていると考えられており、研究グループでは、SMS2による機能制御を活用することで、脂質マイクロドメインの機能制御を介して肥満や糖尿病などのメタボリックシンドロームの治療ができるようになる可能性がでてきたと説明している。