米AppleはiOSデバイス向けにアプリの一括購入やカスタムアプリを導入したい企業向けに、間もなく「App Store Volume Purchasing Program for Business」(以下、VPP)というサービスを開始すると発表した。同社によれば、VPPはApp Storeのアプリを一括導入するための唯一の手段となり、これを利用することで組織内の何百、何千という単位のデバイス向けにアプリを一括購入し、一斉に配布することが可能になる。また通常のApp Storeでは販売されないB2Bなど特定用途向けのカスタムアプリを購入して一斉配布する手段も提供されるため、iOSデバイスをエンタープライズ用途で活用しようと考える企業にとっては大きなステップになるだろう。

App Store Volume Purchasing Program for BusinessのWebページ。「Coming soon」とあるとおり、プログラムが開始されたわけではない

これまでにも、Apple Developer Programなどを通して組織内でカスタムアプリを配布する仕組みは用意されていたが、App StoreのiOSアプリをボリュームライセンスで一括購入したり、前述のようにサードパーティがカスタムアプリをB2B向けに販売し、それを一括展開したり統合管理する一般的な方法はなかった。VPPではこの用途に対して専用のWebサイトを用意し、アプリの購入状況や配布状況を確認できる手段を企業のシステム管理者に対して提供する。なお、当初は米国の企業ユーザーや組織が対象となり、国外向けのアナウンスは行われていない。具体的なVPPの利用手順などについてはPDF形式で利用ガイドが提供されているので、詳細はそちらを参照してほしい。本稿では、その手順を抜粋して簡単に紹介する。

App Storeからアプリを一括購入する

VPPを利用する前に、このサービスを利用する企業はその登録作業(エンロール)を行わなければならない。自身の組織がA Dun & Bradstreet (D-U-N-S or D&B)のデータベースに登録されていることを確認し、必要であれば情報をアップデートする。Appleに対しては組織内で利用しているメールアドレスのほか、電話番号や住所などの情報を提出する。登録の際にはこれらの情報がD&Bのデータベースと照合され、この確認をもって新規のApple IDが発行される。なお、このApple IDはVPP専用のものとなり、既存の個人ユーザーが持つApple IDとは区別される。

待望の企業向け一括購入が可能に

VPP用Apple IDが発行されると、このIDでiTunesに対してアクセスした場合にはVPP専用のWebサイトへと誘導される。App Storeでのアプリ購入手順は従来とほぼ一緒で、目的のアプリが判明している場合は直接URLを検索窓にコピー&ペーストして呼び出すことも可能だ。購入するアプリが決まったら、あとは数量を入力して合計金額を確認後に決済する。この決済においては、コーポレートクレジットカードなどを利用することになる。VPPの購入プロセスが通常のApp Storeと大きく異なる点は、この数量指定の部分のほか、アプリの購入履歴や配布状況が一覧で確認できる点にある。これで履歴を確認しつつ、必要に応じて配布状況や「Redemption Code」(後述)が記載されたスプレッドシートを逐次ダウンロード可能なため、管理者がアプリの配布状況を一括管理できるメリットがある。

カスタムB2Bアプリを導入する

エンタープライズの世界において、特定業務や特定組織向けにカスタマイズされたアプリケーションの存在は大きな意味を持つ。だがiOSデバイスの世界ではアプリを導入するほぼ唯一の方法がApp Storeであり、このApp Storeは一般ユーザーを対象にしたアプリストアであるため、B2B向けに作られたカスタムアプリの配布には向いていない。カスタムアプリにはいくつかのパターンがあるが、まず特定フィールドやワークフローが特定企業向けにカスタマイズされている、専用の企業ロゴ等が入る、特別なセキュリティ設定が施されている、といったようなものだ。今回のVPPでは、こうしたカスタムB2Bアプリを配布するための手段が正式に用意されている。

特定業務・特定組織向けのカスタムアプリも配布可能に

基本的には先ほどのVPP用Webサイトでの手順と同様だが、こうしたカスタムB2BアプリはApp Storeでは配布されていないため、アプリを制作したデベロッパーや配布しているパートナー企業側の協力が必要になる。まずエンロール作業を行ってVPP用Apple IDを用意した後、当該のアプリを導入できるようデベロッパー/パートナーに対してカスタムB2Bアプリ導入のためにiOS Developer Programに同意してもらい、iTunes Connectを通じて当該アプリの配信準備を行う。この際、デベロッパー/パートナーで設定すべき内容はアプリの単価(カスタムB2Bアプリの場合は下限が9.99ドル)のほか、アプリ配布を受ける側が認定購入者であるという情報だ。前述のようにカスタムB2BアプリはApp Storeで配布されていないため、購入者は自身のメールアドレス(Apple ID)をデベロッパー/パートナーに提供して、ダウンロードのために必要な情報を直接入手することになる。このカスタムB2Bアプリは、登録されたApple IDのユーザーにしか見えない点に注意したい。

なおAppleではカスタムB2Bアプリについて、既存のApp Storeのレビューガイドラインに沿った形で検証が行われていることを告知している。一方で機密情報の取り扱いなど、アプリそのものが持つ機能の安全性については担保しておらず、この点はデベロッパー側の責務であることを明記している。あくまで利用者とデベロッパー/パートナーの合意に基づいてのアプリ配布であるということだ。

導入したアプリの配布

組織内のアプリ配布は容易に行える仕組みが用意される

VPPで配布されたアプリは、通常のアプリとは異なる扱われ方となる。その典型が「Redemption Code」と呼ばれるアプリをダウンロードして有効化するための専用コードの存在だ。だがVPPでは数百以上のアプリをまとめて購入して配布するというスタイルをとるため、個々のアプリごとに用意されるRedemption Codeを逐次入力していては管理者にとってもユーザーにとっても大きな負担だ。実際にはRedemptionのための専用URLが用意されており、このURLにiOSデバイスから直接アクセスすることでアプリの導入が簡単に行えるようになっている。

Redemption用のURLは、先ほどのVPPのアプリ購入履歴の一覧で入手できるスプレッドシート上に記載されている。これを各ユーザーに電子メールで直接通知してダウンロードさせる、あるいは社内のイントラネットにURLを掲示してリンクをクリックさせる、といった方法が用いられることになる。もしくは、サードパーティが用意しているMobile Device Management (MDM)といった専用の管理ツールを用いて配布管理を行うことも可能だ。Redemptionの状況は逐次センター側のWebサイトに反映され、管理者はVPPサイトの購入履歴からスプレッドシートのダウンロードを介してリアルタイムで状況を知ることができる。

このところ、エンタープライズ用途でのiPhoneやiPad導入が増えている。今後この市場でBlackBerryをはじめとするライバル製品と競合するにあたり、今回のVPPは大きなアドバンテージの1つとなるだろう。