2008年10月のネット事件は突出して注目されたものはなかったものの、僅差で1位となったのは先月に続きまたもや"流出"関連。今回は著作権関連ではなく、企業による個人情報流出だった。何ともありがたくない定番だが、この手の事件がなくなる日は来ないのだろうか。このほか、2位、3位、4位、7位など、いい大人がなぜ? と思わせる事件が多くランクインしていることが目立った。

2008年10月のネット事件簿 Top10(※)

順位 記事 掲載日
1位 明治安田生命、内定者情報などWinnyで流出 - 採用希望者2,000名分も 10/27
2位 3年育てて「最高レベル寸前」、ゲームキャラ抹消で同級生を送検 - 茨城県警 10/7
3位 漫画捨てると言われ……2ちゃんねるで両親殺害依頼の36歳女を送検 - 警視庁 10/2
4位 「2ちゃん論争相手を困らせたい」創価施設爆破予告の都立高司書を懲戒免職 10/9
5位 「日本著作権侵害者撲滅協会とは関係ありません」 - JASRACが注意呼びかけ 10/17
6位 「テレビが見られなくなる」地デジ詐欺に総務省が注意喚起 - 周知不足も要因 10/28
7位 元勤務先メールサーバに不正アクセスすること4,265回! 35歳男逮捕 - 警視庁 10/8
8位 女子高生がブログで自殺、中傷した元同級生を侮辱罪で書類送検 - 福岡県警 10/14
9位 FBI運営の「犯罪情報交換サイト」、2年間のおとり捜査で56名を逮捕 10/20
10位 ライブカメラサイトで包丁振りかざし犯行予告、39歳男を逮捕 - 警視庁 10/30
※ 各記事の掲載日(10/1~10/31)から1週間のアクセス数をもとにしています。

個人情報流出系事件が初のランキングトップを獲得

今回のランキングトップは、明治安田生命の入社内定者約2,000人分の氏名・写真など個人情報がWinnyを介して流出した事件。この手の事件は毎月のように掲載されているが、意外にランキング上位に入ってくることは少ない。この事件では流出元が「生命保険会社」、データが「内定者」「採用希望者」といったキーワードが注目されたものと思われる。

個人情報流出の事件は、テレビや新聞等でもさんざん報道されているにも関わらず、後を絶たない。今回の事件も、社内の担当者が外部記録媒体で自宅にデータを持ち帰って作業、個人のPCから流出するという典型的なパターンだ。さらに、事件を起こしたのが生命保険会社だというところがイタダケない。

近年、特に大きな企業ではデータを持ち出したり、自宅で作業することを禁止していることが多い。USBフラッシュメモリ等、外部媒体にデータをコピーすること自体が機能的に制限されているケースも耳にする。明治安田生命がこの点に関して会社として全く規律を設けていなかったとは思えないが、それにも関わらず事件は起きてしまった。規律が甘かったのか、それともそれが守られていなかったのか……。

もちろん、業務で扱う保険契約者のデータは独立したシステムで高いセキュリティのもと管理されているはずだ、と一般人は信じている。だが、こうも安易に最も初歩的な手順で社内的なデータを流出させてしまったことは事実。会社側は顧客のデータは安全であると説明するかもしれないが、ごく一般的なレベルでの危機管理が本当にできているのか、世間から疑問視されても仕方ないだろう。もし担当者が社内的に許可を受けてデータを持ち出した上で起こったことだとしても、WinnyをインストールしたPCを使うとはあまりに危機意識が低いと言わざるを得ない。やはり「自分は大丈夫」と思ってしまうものなのだろうか。

気の毒なのは個人情報を流出させられてしまった入社内定者や就職希望者。氏名や住所、メールアドレスのほか、写真や大学名、面接時の所見まで含まれている可能性があるという。先日新聞等で報じられた神奈川県立高校の生徒の個人情報が流出した事件においては、流出のきっかけとなったシステムに関わった日本IBMが「"Share"ネットワーク上で検索及び入手可能な状態にあるデータを削除する方法を確認しましたので、現在その実施計画に着手しつつあります」と発表している(関連記事)。この方法、汎用性のあるものならぜひWinnyにも応用して、写真や面接所見が含まれたデータを削除してあげられないものだろうか。

子供のケンカに親が……いや、大人のケンカに警察が

2位にランクインした事件は、20歳の会社員がオンラインゲームで3年かけて育てたキャラを元同級生の男が"盗み"、消去したというもの。「不正アクセス禁止法違反」の疑いで書類送検された男は、犯行の動機について「キャラクターもほしかったし、困らせてやろうと思った」と話しているという。担任の先生に怒られた小学生の言い分のようだが、この男、21歳だ。

他人の持ち物を欲しがる、誰かを困らせようとしてわざと何かをやらかす……。何だか聞いたことのあるような話だ。キン消しのコレクションからウ○ーズマンだけ盗まれたとか、カードのアルバムから綾○レイだけ持って行かれたとか、その手の思い出話にちょっと似たような臭いを感じる。そんな子供の頃と違って、パソコンを所有できる金銭的な力を持ち、パソコンを使う知識を身につけたはずなのに、男の言う動機は何とも子供じみている。せっかく得た力も知識も、その使い道は発想力に左右されてしまうわけだ。何というか、発想力・想像力を養うことは、やはり大切なことなのだろう。

一方でキャラを消去されてしまった会社員も、「盗んだの誰だよ?! 警察呼ぶぞ」とばかりに県警の相談窓口へ。本人にとっては誘拐殺人にも値するような大事だったのかもしれない。だが現実世界では「不正アクセス禁止法違反」。男は書類送検されたが、被害を訴えた本人が得るものは何もない。冷静になって法律事務所なりに相談し、民事で損害賠償請求でもした方がよかったのではないだろうか。時間とお金をかけて育てたキャラだ。実体は無いがデータが本人の所有物だと認められれば(ゲーム提供側の利用規約はあるにせよ)、何らかの償いが受けられた可能性もあっただろう。

被害にあった会社員とこの男は、もともと茨城県内で同じ中学に通う同級生だったという。もしこれが中学生の時に起こしたことであれば、まあ無い話ではないだろう。だが、社会的には成人したはずの2人。ゲーム内ではキャラを育てていても、2人の関係は中学生の時から成長していなかったのだろうか。

それにしても、この事件の捜査に半年以上もかけたという警察署の方々、大変ご苦労様なことである。