ホームシアターの構築を考えている人にとって、一番の悩みどころと言えばプロジェクターであろう。AVアンプとスピーカーによるマルチチャンネル再生ももちろん重要なポイントだが、「我が家のシアター」を名乗るなら、やはりテレビでは実現の難しい大画面があってこそだろう。しかし、画面の大きさ以外にも、本体の設置スペースや投射距離まで考えなくてはならないプロジェクターの置き場所には、頭を悩ませている人も多いはず。

そんな設置の難しいホームシアターを手軽に実現できる製品が、ベンキューから販売されている「W1080ST+」だ。DLP方式のフルHDパネルを採用し、Blu-rayビデオの映像をフルスペックで堪能できるという性能を備えながらも、なんと約1.5mという短距離で100インチの大画面投射を実現できてしまう。また、横方向の台形補正も搭載しているので斜めからの投写も可能。これだけ設置の自由度が高ければ、家族でちょっと映画を楽しみたいときにテーブルの上に設置したり、6畳のワンルームでホームシアターを鑑賞したいといった場合でも気軽に利用できる。

DLP方式を採用した、BENQの超短焦点フルHDプロジェクター「W1080ST+」

だが設置の自由度が高いとなると、気になるのは映し出される映像のクオリティだ。データプロジェクターのような輝度優先の絵作りでは鑑賞しているうちに目が疲れるだろうし、かといって一昔前のホームプロジェクターのように画面が暗くピントの甘い画面になってしまっても物足りない。

そこで今回、テレビCMや映画制作に携わっている現役の映像クリエイターである松田義正氏を招き、DLP方式と液晶方式のホームプロジェクターを体験してもらった。テーマは「個人用途の映像出力(プロジェクター)選び」。主に試写やプレゼンテーションの場面でプロジェクターを使用する機会が多いという松田氏。映像のプロから見たホームプロジェクターの感想はどのようなものだろうか。

映像作品で2台のプロジェクターの画質をチェック

DLP方式のW1080ST+と液晶方式の同価格帯の国産有名メーカー製品を比較

今回はDLP方式を採用した「W1080ST+」に加え、液晶方式を採用した同価格帯の国産有名メーカー製プロジェクターを合わせて用意し、2つを並べて投射する形で映像の比較を行った。どちらもアスペクト比16:9のフルHDパネルを搭載したプロジェクターだが、スペースの関係上、80インチ、アスペクト比4:3のスクリーンに投射している。ちなみに、明るさや色温度の設定などは初期設定のまま。

はじめに、松田さんが制作に関わったという映像作品を見比べてもらい、画質のクオリティを検証。第一印象として、「明るい部屋の中ではどちらもそれほど変わらないように見えましたが、こうして照明を落として見比べると違いますね。DLP方式を採用している左(W1080ST+)のほうが、明るい所と暗い所のディテールの違いがハッキリと分かります。安い製品だと飛んでしまう白が粘り強く表現できていると感じました。また、黒がより深い黒で再現されていますね。右の液晶方式のものはちょっとボケて見えるというか、白が浮いて暗部がつぶれている印象です。この高いコントラスト感は、DLP方式だから実現できているのでしょうか、余計な光が入っていない感じがします」というコメントをいただいた。

2台のプロジェクターを比較視聴する松田氏。机の位置で、投射距離の違いがわかる

さすがにプロの映像作家の目はシビアだ。色の再現性については少々手厳しく「普段マスターモニターでチェックしているので、どんな機器で見ても、色は違ってきます。意図した通りの色はどちらにしても出せないですよね。プロジェクターの場合、部屋の影響も受けますから、判断は難しいです。それでもこの2つを比べた場合、DLP方式の左(W1080ST+)のほうが、意図した色に近いと思います。マスターモニターとは価格帯が全然違うので「近い」としか表現できませんが、この価格でここまでの色を再現できるんですね」と語る。DLP方式のW1080ST+はテキサス・インスツルメンツのBrilliantColor技術が採用されており、6つの色処理によって10億色以上の再現が行える。このハリウッドも認める色精度の高さが功を奏したのかもしれない。

動きの多いスポーツ映像やPC画面での画質を検証

続いて、激しい動きのあるスポーツ中継映像を2台で見比べていただいたところ、「これは確実に左のDLP方式ですね。動きが滑らかに見えますし、あらためて色のバランスは良いなと思いました。スポーツ中継を見て改めて感じましたが、プロジェクターに内蔵されたスピーカーからずいぶん大きな音が出せるんですね。会議室でのプレゼンなんかだと、このスピーカーだけで十分事足りるなと思いました。ただ、この場で言う事ではないのですが、エンターテインメント映像を楽しむなら、別途スピーカーを用意したほうが良いかもしれません。映画にしろ、スポーツの中継にしろ、音声がしっかりしていれば臨場感がまるで違いますから。私は格闘技ファンなので、このプロジェクターに、お気に入りのスピーカーを組み合わせて、格闘技を観戦したいですね。より楽しみが広がると思います」と松田氏。「映像のクオリティは6割が "音" で決まる」と仰っている松田氏ならではのコメントだ。

では、PC画面を投射するとどうだろうか。マイナビニュースのWebサイトを映し出してみたところ、「初期設定の色の違いがはっきりしますね。個人的には左の色合いの方が好きですし、文字が読みやすいコントラストだと思います。でも、マイナビロゴの青色は、右のほうが実際のものに近いんじゃないかな? 時間があれば設定を追い込んでみたいですね」と語る松田氏。プリセットの色温度やガンマ設定の違い、ランプパワーの違いによっても色は変わるため、実際に使用する際には設定の追い込みを行えばより画質を向上させることができそうだ。

マイナビニュースのWebページにある青色の再現性に着目した松田氏