メンタルを鍛える

――電王戦の結果は残念でしたが、森下九段にとってどんな経験になりましたか。

森下 卓九段

「注目を受けたということがすごく大きいですね。気持ちも高まりますし。コンピュータにこそ負けましたが、公式戦の内容も成績も飛躍的によくなったという実感があります。強いソフトはいいトレーニングパートナーになるということは以前から薄々思っていたんですけれども、いざやってみてこれほどいいのかと思いました。だから一丸さんには、強いソフトの開発でもし私の力が要るんだったらいつでも協力させてもらいますので、その代わり私を強くするソフトをお願いしますと念を押して話しているんです(笑)」

――第3回将棋電王戦の開催中、森下九段は王位リーグに10年ぶりに入られ、佐藤康光九段との将棋では211手で競り勝ちましたね。

「あれは100パーセント電王戦効果。それしかないです(笑)。佐藤さんと私の将棋では私に勝てる要素がないんですけど、いい将棋が指せましたね」

――211手も気持ちが折れずに指し続けられたというのは、コンピュータとのトレーニングでメンタルな部分が鍛えられたということでしょうか。

「これを言うと語弊があるかもしれませんが、野球のピッチャーの球に例えるなら、プロ棋士の手が時速160キロの玉とすると、コンピュータ将棋ソフトは特に終盤の秒読みのときは200キロの球が飛んでくる感じがします。日頃から強いソフトと鍛錬していると、人間との対局のときに気持ちが多少楽になるというのはありました。タイトルホルダーなど強い相手と対戦すると、もうやる前から気持ちがひるんでしまうことがあったのですが、打てない球じゃないんじゃないかと思えてきました」

――コンピュータとの練習を通じて、改めて実感したことはありますか。

「将棋っていうのは、とことん頑張り抜けばそう簡単には負けないんだなということ。ただ、そうはいっても生身の人間がコンピュータのように頑張るのはやはり難しいだろうということも再認識しました。どうしても気持ちから崩れていくということがありますので」

ベテランの逆襲のため

――これからはどういうふうにガレリア電王戦を活用していくつもりですか。

「コンピュータに勝つための練習から、人間に勝つための練習にシフトして使わせてもらっています。実戦はもちろんですが、それから疑問に思っている局面をインプットしてコンピュータならどう判断するかを検討する。それがやっぱり大きいですね。形勢評価の数字だけを見てもよく分からないところがあるので、将来はもっと人工知能化してきて、生身の人間のように読み筋を教えてくれるコンピュータが出たらありがたいです」

――森下九段といえば、若い頃は研究の虫と言われ、森下システムも作られました。新しい将棋を作る上で、どうコンピュータを活用することは考えていますか。

「定跡はプロが長年かけて築き上げてきましたから、ほぼ正しいものではあるんですよね。ただそれはあくまで“ほぼ”ということであって、絶対正しいというわけじゃありません。我々の頭にこびりついている固定観念といったものをコンピュータが覆して、明確にしてもらえたら助かります」

――プロ棋士は、これからコンピュータとどういうふうに接していくべきだと考えていますか。

「人間同士の対局では、ミスをするんじゃないかという恐れを持ちながら戦っています。でも、そういうプレッシャーやストレスの中でいい手を指すところにプロの価値があるんです。ゴルフにしても、プロゴルファーが最後の50センチのパットを決められるかどうかというところが面白い。だから私個人としては、人間とコンピュータが戦う意味はないと思っているんですよ。これからはコンピュータに勝つにはどうするかということよりも、コンピュータをどう使って自分をさらに強くしうるかというところが大きなテーマです」

――そういえば以前インタビューしたときに、コンピュータをパートナーにすることで、中年の逆襲が可能だとおっしゃってましたね。

「僕も48歳、プロになって31年目なるのですが、まずは情熱とそれから体力、健康に気をつけていれば、まだまだ相当やれるんじゃないかと思い始めています。現役として何歳までできるかは分かりませんが、自分もひたすら将棋を一心にやれば、70歳くらいまではA級とはいかないまでもトップ20人くらいには入れるんじゃないかなという感じもしています。ベテランは力が落ちているから、若手よりはるかに努力しなければ勝てないんですよ。ところがベテランはやらないんですよね(笑)。これからは若手に負けないくらい努力するのは絶対条件ですけど、それで健康に気をつけて将棋一本で打ち込めば、ベテランも侮れないと思います」

――ガレリア電王戦は市販もされているのですが、上達するためのコンピュータ活用法をアドバイスしてください。

「アマの方は負け続けると気持ちが嫌になると思うので、ハンデをつけて自分が勝てるくらいの勝負をいっぱいやったほうがいいと思います。私も囲碁が好きで囲碁ソフトと時々やってますけど、強くて嫌になることがありますからね(笑)。コンピュータはハンデをつけても文句を言いません。日頃はちょっと弱いレベルで楽しみ、本格的に勉強したいときは少し強いレベルでやるのがいちばんいい使い方だと思います」

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本稿は、日本将棋連盟発行の『将棋世界』2015年1月号の記事の転載です。

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