先週Nokiaが発表した「Lumia 920」には物欲を刺激された。Windows Phone 8を搭載して、ディスプレイとカメラ機能を大幅に強化。デザインに対する意見は様々だが、好きか嫌いかに分かれているから魅力があるということだ。だからこそ、名前がもったいないと思った。Lumia 900の後継機だからLumia 920で、普及帯モデルはLumia 820 ……「数字の大小で新旧や機能・性能の違いがわかるから十分」という人もいるだろうが、正直混乱する。この数字の違いから製品の特徴を読み取れる消費者がどれほどいるだろう。それどころかLumia 9xxがフラッグシップ機種であると分かる消費者も少ないだろう。これは、もったいないことである。

重箱の隅をつつくように名前に文句をつけたのは、先週Appleがプレス関係者やアナリストに配布した9月12日のイベントの招待状を見て「おやっ」と思ったからだ。12日の開催を示す"12"という数字から"5"に見える影が伸びている。そのため、次のiPhoneの名前は「iPhone 5」でほぼ決まりと言われている。ここ最近うわさ記事でもずっと"iPhone 5"と呼ばれていたので、iPhone 5という名前自体に驚きはない。「やっぱり、そうなんだ」という感じで受け止められている。

しかし、第3世代のiPad(新しいiPad)が登場した直後のことを思い出してほしい。たくさんの人が次のiPhoneは「新しいiPhone」になると予想していたではないか。iPhone 5になるのなら、逆になぜiPadはシンプルにiPadだったのかという疑問が思い浮かんでくる。iPad 3で良かったではないか。

本当に次のiPhoneがiPhone 5であるかは、発表されるまで確定ではないし、もしかしたら「iPhone第5世代の『新しいiPhone』です」と登場するかもしれない。今回はあくまで筆者の空想の域を出ないのだが、次期iPhoneがiPhone 5であると仮定すると、iPad miniと呼ばれて噂されるひと回り小さいiPadの登場が真実味を帯びてくる。

2つの名前を並べてみよう。もしiPad 3とiPad miniだったら、来年はiPad 4とiPad mini 2。これらの数字が消費者に対して、どれほどの訴求力があるだろう。将来のiOSのメジャーアップデートでサポート機種を消費者に伝えやすいという見方もあるだろうが、アップデートできるかはiOSやiTunes、App Storeのアップデートの仕組みがきちんと判断してくれる。むしろ、すっきりとiPadとiPad miniとした方が、それぞれの製品の役割がはっきりして、消費者にとって分かりやすい。

振り返るとAppleは、iPodでも「classic」「mini」「nano」「shuffle」「touch」などの名前で製品をシンプルに表現し、世代を表す数字はつけなかった。逆にこれは、世代を示す数字を製品名に持つiPhoneは今後もひとつの製品セグメントが維持されることを意味する。

「新しいiPad」は奇抜な名前だったのではなく、2つに分かれるiPadの製品セグメントをわかりやすく消費者に伝えるための布石だった…… この推測が正しければ、こんなところ(実際はとても大事なところだが……)にまで「不要なものは捨てる」を徹底するAppleには恐れ入る。

Kindle Fire 2ではなく「Kindle Fire HD」

Amazon.comの製品名の付け方もAppleに近い。電子書籍リーダーが「Kindle」と「Kindle Paperwhite」、電子書籍・音楽・映画/TV番組を楽しめるデジタルエンターテインメント・タブレットが「Kindle Fire HD」と「Kindle Fire」だ。

「"Kindle"と"Kindle Fire"の違い、"HD"の意味が消費者に浸透しているのか?」と聞かれたら、現状で「している」とは言い難い。だが、Kindle Fire 2とするよりもKindle Fire HDの方が新しいKindle Fireの特徴が容易に消費者に伝わるだろうし、Kindle Paperwhiteに至っては"ペーパーホワイト"である。どのような電子書籍リーダーなのか、名前から容易に想像がつく。長い時間を経て、少しずつKindleファミリーの製品セグメントは消費者に浸透していくだろう。

初代Kindle Fireは米国のタブレット市場で22%のシェアを獲得したという。Kindle新製品の発表会でAmazon CEOのJeff Bezos氏は次のように述べていた。

「消費者はスマートです。昨年、数多くのAndroidタブレットが市場に登場しましたが、消費者は関心を示しませんでした。なぜでしょう? それらがガジェットだったからです。人々はガジェットに飽き飽きしています。彼らが求めているのはサービスです。日々進化するサービスを求めているのです。Kindle Fireは、(ガジェットではなく)サービスです」。

Kindle Fireは箱から取り出したら、すでにユーザーのAmazonアカウントがセットアップ済みで、すぐにAmazon.comのサービスを利用でき、2200万以上のアイテムにアクセスできる。Amazonのクラウド型のデジタルエンターテインメント・サービスの一部に組み込まれた"Hardware as a Service"である。

Kindle Fire HDはガジェットとしてKindle Fireが進化したのではない。AmazonのサービスがHD品質のコンテンツを提供するようになり、それらを簡単に楽しむためのハードウエアデバイスをAmazonが用意したのだ。Kindle Fire HDをガジェットと見なせば、Kindle Fireの後継機になるが、進化しているのはガジェットではなくサービスである。だからKindle Fire 2ではなく、Kindle Fire HDなのだ。