年々高まる英語熱

■TOEICの経済効果は約1028億円

2012年の11月18日(日)に行われるTOEIC試験を実際に申し込んでみた。

自分の英語力をKPI化(見える化)するひとつの方法として、TOEICテストを受けてみるのはこのコラムもあることだし、いい機会だと思った。また、皆さんにもチャレンジを共有することができる。もちろん、英語のコラムを連載しながら、ひどい得点を皆さんにさらしたくないというモチベーションも働く。

一方ではかなり自虐的な結果が待っているのかもしれない(笑)。むしろ、そうでもしないと英語学習のモチベーションはあがりにくいものだ。

ボクにとって、このTOEICテストのスコアは、人生の行方を変えるものではない。しかし、これからの新卒採用では、TOEICのスコアが人生の行方を左右する時代になりそうな気配がしている。

そもそも、TOEICとは、国際コミュニケーション英語能力テスト(Test of English for International Communication)のこと。1979年、日本経済団体連合会と通商産業省の要請に応えて公的テスト開発機関、米国ETS(Educational Testing Service)社が開発した。

タイム社の極東総支配入であった北岡靖男と通産官房長の渡辺弥栄司が、文法重視ではなく実際に英語を使うためのテストとして制作を依頼したのがきっかけ。1986年、通産省の認可を受けた財団法人 国際ビジネス・コミュニケーション協会(IIBC)が運営している。

コンセプトは「ビジネスの現場で必要とされるコミュニケーション英語能力を測定する、世界共通のテスト」 日本で227万人(2011年)韓国で200万人(2008年)で世界200カ国の9割を占め、受験総数は500万人(2008年)に至る。

TOEICの及ぼす経済効果を、ざっとフェルミ推定で計算してみると、市場規模は約1,028億円になる。

内訳は、日本だけの試験料金5,565円×227万人の単純計算で126億3,255万円。

世界全体500万人では約278億2,500万円の試験料金の市場規模だ。

そして、受験者全員が約5,000円の教材を購入し(+250億円)、10人に1人が英語学校などへ10万円分通ったとする(+500億円)で算出してみた。さらに、TOEICの基礎編となる「TOEIC Bridge」などが幼小中高のK12(幼稚園から高卒までの13年間)市場へ向けて普及するとさらにこの市場は拡大するだろう。

■2011年大卒新入社員のTOEICスコア平均は494点

2011年大卒新入社員のスコア分布 平均点は494点、最多得点帯は296~345点

2011年大卒新入社員のTOEIC平均スコアは494点だった。また、実施企業は954社、受験者数は38,473名だった。

TOEICのリスニング(Listening)とリーディング(Reading)の差

意外だったのがこのリスニング(Listening)とリーディング(Reading)のグラフの差だ。日本人はリスニングが苦手だけど、読み書きは得意との先入観を持っていたが、このグラフを見る限りでは、リスニングは得意、リーディングが不得手と見ることもできそうだ。これは、TOEICテストの特徴なのかもしれない。

受験する人が、まったく初回だと、日本語が全く使用されない問題に対して不慣れな状況だったのだろう。むしろ、「英語」ではなく「English」の理解度を測るためのテストであり、世界約120カ国で使用されているため、当然日本語はない。当然ながら英訳、和訳なんて問題もない。だからこそ、日本の英語学習の効果がスコアに反映されにくいテストだ。

むしろTOEICのReadingでは、中学時代の英文法をしっかり理解しているかどうかで得点の差がでる。4択問題などではそんな問題が多い。

■TOEIC、英検、TOEFL その違いは?

TOEICは資格試験でも採用試験でもない。しかし、その人の英語力を客観的に判断するための指標としては、わかりやすい。ポイントによるスコア制度なので、合否がなく、10点から990点までに必ず分布されるからだ。英検(文部科学省系)などの指標だと合格寸前でも合格しないことにはその級を名乗れない。英検では3級以上には面接試験があるが、TOEICには面接試験がない等、試験の仕組みが違うので、TOEICのスコアと英検を単純に比較することは難しい。しかし、英検取得者のTOEICスコアという分析では、下記などが目安になりそうだ。あくまでも目安だが。

TOEIC 930 英検1級
TOEIC 700 英検準1級
TOEIC 570 英検2級
TOEIC 450 英検準2級
TOEIC 340 英検3級
TOEIC 260 英検4級

NCC総合英語学院調べ

TOEICのほかにTOEFL(トーフル)も有名だ。 TOEFL(Test of English as a Foreign Language)は、1964年、英語を母国語としない人々の英語コミュニケーション能力を測るテストとして、TOEICと同じ、米国非営利教育団体であるEducational Testing Service(ETS)により開発されたテスト。主に、大学の入学前のテストとして世界標準である。ただ、大学で学ぶ外国人のためのものであり、語彙も学術に関するものが含まれるため、ビジネスを照準としたTOEICとはテストの質が異なる。

留学を考えるのであればTOEFLは必須だ。

■新卒採用にTOEICスコアを求める企業

社内公用語を英語とした楽天の新卒でスコアは650点以上、ユニクロのファーストリテーリングの新卒700点以上となっている。続いて、ソフトバンク、武田薬品工業の新卒は730点以上、楽天の上級管理者は750点以上、NTTコミュニケーションズの新卒は850点以上、外資系のサムソンは900点以上と明確に新卒社員にTOEICスコアを数値化している企業がある。

この動きは日本の企業で今後、一段と広まっていくとボクは考えている。それは日本の企業が国際化、グローバル化しないと生き残れないことがわかっているからだ。

ゴールドマン・サックスのレポート「more than an Acronym (2007年3月)」によると、2050年(今から+38年後)までに世界の経済規模は現在の約3.2倍に膨らむそうだ。しかし、その時の日本は、なんと、GDP世界比率は12%から3%へと1/4にもシュリンクするそうだ。 【参照】連載第3回 10年後のNipponをイメージしてビジネス英語とつきあおう!

また、それだけでなく、何万人も応募してくる企業では足切りとしてのTOEIC策もあるだろう。

さらに昇進試験などでは、英語とはかかわりのない企業でさえ、新卒と同じ条件を提示すればリストラ対応のリストアップにもつながる。企業に入る障壁が上がり、入ってからもますます障壁が上がる状況だ。さらに、英語の場合は使わないとすぐにサビが現れるからなおさら大変だ!

当然、企業が変われば、次は大学が変わる。大学時代から日本の企業を目指すならばTOEICという選択枝に照準を合わせた英語学習が必要となるだろう。いや、むしろ大学への受験勉強が成功したら、英文法主体ではない、TOEIC対策用の授業や講義、ネイティブとの会話の機会などが重要だ。そんな意識改革からようやく、日本人の英語に対する意識が変化してくることだろう。

■東大秋入学は、教育改革へとつながるのか?

東京大学が9月期秋の入学を検討していることが話題になった。5年の準備期間をかけてだったが、2012年9月26日の東大総長の第二次所信である「総合的な教育改革の加速に向けて」では、「1日も早く」という言葉が新たに織り込まれた。

これは大学側が国際的な入学と卒業の基準に合わせるためのものである。 9月入学となれば、教授陣の移動時期にも対応できるので、海外から優秀な教授をスカウトできる可能性が高まる。もちろん、ネイティブな外国人教師も増えることだろう。また、海外からの優秀な学生を受け入れることもできる。

世界215カ国の大学の約6割が9月入学を採用し、欧米の8割にいたる。すでに、12大学からなる「教育改革推進懇話会」が、東大をはじめ北海道、東北、筑波、東京工業、一橋、名古屋、京都、大阪、九州の国立大10校と、早稲田、慶応の私立大2校で構成(東大と慶応大が幹事役)。

■世界の大学、入学時期

(1月)シンガポール
(1月下旬~2月上旬)オーストラリア、ニュージーランド
(2月)ブラジル
(3月)アフガニスタン、韓国、アルゼンチン
(4月)日本、インドネシア、ペルー
(5月)タイ
(6月)フィリピン
(8月)ハワイ
(9月)アメリカ、イギリス、アイルランド、サウジアラビア、カナダ、 カザフスタン、中国、イタリア、スペイン、フランス、ドイツ、 オランダ、エジプト、香港、台湾、トルコ、メキシコ、キューバ、ロシア
(10月)ナイジェリア、カンボジア

これを見る限りでも、G8の国で9月始まりでないのは日本だけなのである。これは、入学や卒業だけでなく社会に出るタイミングが主要国からズレているという見方もできる。

本来、日本も9月が新学期だった時期があったのだ。

1872年(明治5年)から1920年(大正9年)の48年間だ。

4月入学になった原因は、国の予算会計年度と一致させたためであり、陸軍の徴兵が9月から4月へと早くなったことにも起因する。さらに、その大元である日本の会計年度は、農業国家であった日本の稲刈りの繁忙時期をはずしたことなどの影響を受けていた(笑)。

すでに稲刈りも徴兵もないのだから、いつ9月に戻しても問題はないはずだ。

むしろ、問題は、100年近くも4月始まりで育ってきたこの日本の文化だ。もはや、誰も日本人の9月始まりを経験していない。桜が咲くころに3学期が始まるのはピンとこないかもしれないが、これはもう慣れしかない。

小学校、中学校、高等学校、大学、企業、役人、国家試験すべてが4月入学体制で動いてきた。一気に国家主導で行うのか、個別に行うのか?

東大をはじめ、一流大学が変われば、受け皿となる官僚の国家試験や企業も変わるだろう。

4月入社組と9月入社組とに大別するかもしれない。これは、採用活動の一極集中をさける意味でも効果的だ。就職浪人という言葉も緩和されるかもしれない。9月入社があると、海外からの外国人雇用や帰国子女たちにも活路が広がる。企業の中で一気にグローバル化していく。

むしろ、日本の企業が発展するのはこの手しかないと思う。日本の文化的な背景は残しながらも、斬新な海外からの空気を取り入れるのだ。すると、英語は本当のコミニュケーションツールとなる。

企業が変わり、大学が変われば、あとは簡単だ。高校、中学、小学校と順次変わる。学習指導要綱も見直され、英語嫌いを量産してきた英文法英語からようやく脱却できる時がくる。

9月採用が始まり、9月入学が始まるとすると、半年間、半年早まるのか遅くなるのかが問題となる。そのたった半年でグローバルな世界とのリンクが取れるのならば、貴重な半年だと思う。

■2017年、新たな外国、日本の登場

東大が掲げる5年後と言えば、2017年だ。実質あと4年後となる。4年もあれば学生ならば真剣にTOEFLにトライして留学を視野に入れることもできる。入社時期が緩和されるとカナダやオーストラリアで、半年間(通常1年以内)ワーキングホリデーで語学を習得してから大学へ行く、現地で仕事を見つけるなどと、いろんな人生の選択枝が増えることだろう。

日本の官僚システムである国家試験などもすべて4月入学の体制なところも影響している。しかし、どこかで調整せざるを得ないだろう。その半年のために、いろんなメリット・デメリットが協議され、国民全体がその意識に動き出す。そのような意識改革の上で政府や国がどう対応するのか、そして政党はどんな票取りのためのマニフェストを掲げるのか?

教育関連ビジネスにとって、これはビッグチャンスだ。

教育機関は、国際化に関心を向けるだろうし、受験のための受験勉強から本当の意味でのアカデミックな場を求め、企業側も少子化時代の優秀な人材をさらに欲する。予備校も単なる受験対策だけでなく、グローバル人材育成の素地を作る教育に目覚める。

その中で「英語」は一番影響を受ける。

英語によるコミュニケーション、そしてスキルやツールだけではなくグローバル人材育成の重要性がさらに重要となる。2017年、新たな外国としての日本が登場するのだ。

■TOEICテストは最初の試金石にすぎない。

テストの主体は受動的な「リスニング」と「リーディング」だ。 英語コミュニケーションにおける、能動的な「ライティング」や「スピーキング」は残念ながらメジャーなテストではない(TOEIC スピーキングライティングテストというのがあるが…)。また、TOEICでは、過去の問題集を、かつての受験テクニックで丸暗記するだけで800点までは取得できると言われている。

さらに、4択のマークシートなので、どれかにチェックを入れれば1/4の確率で250スコアは取れてしまう。

必ずしもTOEICテストのスコアで英語が使えるという判定にはならない。

しかしだ、今までの「英文法」というすべての学生に言語学者のような知識を求める勉強のやり方よりは実践的な事は確かだ。

そのために時間を浪費してきたことを、もっとヒアリングやリーディングに置き換えることだってできる。

英語を理解するための英文法を覚えるのに「関係代名詞」や「分詞構文」といった漢字を、どれだけボクたちは、覚えてきたのだろう。

もうこれ以上、英語嫌いを量産する仕組みで未来の日本を苦しめるのはヤメにしたい。

ということで、また来週!

文/Paul toshiaki kanda 神田敏晶

神田敏晶
KandaNewsNettwork,Inc. 代表取締役
ビデオジャーナリスト / ソーシャルメディアコンサルタント

神戸市生まれ。ワインの企画・調査・販売などのマーケティング業を経て、コンピューター雑誌の編集とDTP普及に携わる。その後、 マルチメディアコンテンツの企画制作・販売を経て、1995年よりビデオストリーミングによる個人放送局「KandaNewsNetwork」を運営開始。ビデオカメラ一台で、世界のIT企業や展示会取材に東奔西走中。

1999年に米国シリコンバレーに進出、SNSをテーマにしたBAR YouTubeをテーマにした飲食事業を手がけ、2007年参議院議員選挙東京選挙区無所属で出馬を経験。早稲田大学大学院、関西大学総合情報学部で非常勤講師を兼任後、ソーシャルメディア全般の事業計画立案、コンサルティング、教育、講演、執筆、政治、ライブストリーム、活動などをおこなう。