【あらすじ】
コマガール――。細かい女(ガール)の略。日々の生活において、独自の細かいこだわりが多い女性のこと。細々とした事務作業などでは絶大な力発揮をするが、怠惰な夫や恋人をもつとストレスが絶えない。要するに几帳面で神経質な女性。これは世に数多く生息する(?)そんなコマガールの実態を綴った笑撃の観察エッセイです。

たまに知人から「誰か素敵な人がいたら紹介してよ」と男女の恋の仲介役を頼まれることがあるが、その場合、なぜか大半が女性からの頼みだ。僕ら夫婦の知人・友人には、年ごろ(アラサーから40歳くらいまで)の独身族が男女それぞれ一定数いるのだが、結婚や恋愛に積極的なのはいつも女性のほうで、俗に言う肉食女子の増加を実感したりする。

例えば、ある独身の女友達は現在32歳なのだが、ここ最近は会うたびに「誰か紹介して」「合コン組んで」「贅沢は言わないから出会いが欲しい」と懇願してくる。彼女曰く20代のころは「ハゲ・デブ・オッサン・貧乏・バツイチ」を男性の5大NG条件に掲げていたらしいのだが、今は「ハゲはしょうがないから、別に気にしない」に変わり、「デブは痩せさせればいい」に変わり、「こっちも30歳を超えたのだから、40代のオッサンでも十分恋愛対象」と思えるようになったという。経済事情に関しても「無職とか多重債務者とかじゃなければ、ある程度の貧乏はしょうがない」と考え方を改め、バツイチ問題に関しても「養っている子供がいなければ、バツイチでもいい」と寛容になった。要するに、現在の彼女は独身男性でありさえすれば、ほぼ全方位恋愛外交に近い方針なのだ。

他の女性もそうだ。彼女ほど極端ではないものの、あまり男性に贅沢な条件を求めてこない。それより誰かと出会うことが先決であり、その後の良し悪しの判断は自分で勝手にするという。肉食女子かどうかはともかくとして、少なくとも僕の周りの独身女性(30代以上)は恋愛活動に積極的だ。年齢的に出産のことも頭をよぎるのだろう。将来の不安や焦りを隠すことなく、正面から相談してくるからこそ、こっちも真剣に考えてしまう。自分が知っている独身男性をなんとか紹介できないものかと、思案に暮れるわけだ。

しかし、そこで厄介なのが男性のメンタリティーである。これはあくまで僕の知人・友人だけに言えることかもしれないが、なぜか年ごろ(アラサーから40歳ぐらいまで)の独身男性は女性に比べて恋愛に消極的なケースが多い。冒頭の女性のように、「誰か素敵な人がいたら紹介して」と頼んでくる男友達は皆無に等しく、だからこっちも彼は恋愛に困っていないのだろうと判断してしまう。浮いた話を一切聞かない男友達はかなりの数にのぼり、その中には条件的に優良物件(高学歴・高収入など)もちらほらいるのだが、彼らは一緒に飲んでいてもなぜか恋愛の話をしたがらない。仕事や趣味の話が好きなのだ。

これはいわゆる草食系男子なのかと思ったものの、よくよく話してみると、それとはまったく別物だった。彼らは決して自分からは恋愛の話をしないものの、こっちが「彼女ほしくないの? 」などと質問すれば好反応が返ってくる。「そりゃあ欲しいけど、なかなかいい出会いがないんだよね」と首をひねり、自分が理想とする女性の条件を嬉しそうに語り出したり、果ては結婚願望を口に出したり、とにかく恋愛への渇望感をあらわにする。

そうか、女性に比べて男性はシャイなのか。僕は勝手にそう判断した。自分から積極的に「誰か女性を紹介して」と頼むのは照れくさいが、心の中では常に出会いを求めているのだろう。ということは、例えば僕のほうから「紹介したい女性がいるんだけど」と提案すれば、彼らは目を輝かせて喜ぶに違いない。ちょうど前述の女友達から独身男性陣との飲み会(合コン)のセッティングを頼まれていたところなのだ。

ところが、である。先日、ある独身の男友達(36歳)にそういった合コン話を提案したところ、どういうわけかあっさり断られた。

「ありがたい話だけど、そういう飲み会は苦手なほうだから遠慮しとくよ。彼女は自分で探すから、気を遣わないでくれ」。

僕は呆然とした。断られることをまったく想定していなかったので、返す言葉が見つからない。3秒ほど沈黙したあと、「あ、そう。わかった」と言うのがやっとだった。

もっとも、これだけなら彼がたまたまそういう性格だったということにすぎないが、このやりとりが何人もの男友達(全員30代独身)に連続したから不思議である。現代の30代独身男性の1つの傾向なのかと思ってしまうほど、みんな合コンの誘いをあっさり断り、異口同音に「彼女は自分で探すから」とシャッターを下ろしてしまうのだ。

かくして、肝心の男友達がこういう姿勢であるため、件の合コン話は一向に進展しないまま、現在に至っている。同じ30代の独身族でも、女性は積極的に出会いを求め、男性はせっかくの出会いを拒否。需要と供給のバランスがここまで崩れてしまうと、女性も大変だろう。結果として、冒頭の女友達は年下の20代男子とばかり合コンを重ね、「やっぱり若い男はダメだわー。女をルックスと若さでしか判断しないんだもん。これだから、男は30代以上がいいんだよねー」と、合コンの大惨敗をしょっちゅう嘆いている。

このような30代独身男子の奇妙なメンタリティーは、最近の僕の関心事の1つだ。僕の友人・知人だけに限られた局地的な傾向なのか、それとも大多数に当てはまることなのか、それも含めて今後詳しく調査していきたいと思う。そこにあるのは「草食」という言葉だけでは説明することができない、男性特有の複雑な心理なのだろう。

<作者プロフィール>
山田隆道(やまだ たかみち) : 作家。1976年大阪府生まれ。早稲田大学卒業。おもな著作品に『雑草女に敵なし!』『Simple Heart』『阪神タイガース暗黒のダメ虎史』『彼女色の彼女』などがある。また、コメンテーターとして各種番組やイベントなどにも多数出演している。私生活では愛妻・チーと愛犬・ポンポン丸と暮らすマイペースで偏屈な亭主。チーが几帳面で神経質なコマガールのため、三日に一度のペースで怒られまくる日々。
山田隆道Official Blog
山田隆道公式Twitter


『芸能人に学ぶビジネス力』(毎日コミュニケーションズ)発売中!!

普段、なにげなくメディアを通して見聞きしている芸能人。彼らのことを今までよりちょっと肯定的に見ようとする心さえ養えば、あらたに気づくことが山ほどある。

たとえ素顔はどんな人間であろうが、生き馬の目を抜くような厳しい芸能界で、自分の名前を看板にたくましく荒波を渡り歩いているという点は紛れもない事実……。そこだけを考えると、どんな芸能人にもなにか一つぐらいは人生のためになる処世術の極意が隠されているんじゃないか。

本書はそんな「芸能人から学ぶべきビジネスの極意」にスポットをあてた、いわゆる仕事力を向上させるための指南書であり、同時に昨今の芸能界で巻き起こった様々なニュースを題材にした、ただの娯楽エッセイである。

<コンテンツ> AKB48に学ぶ内輪力 / 石田純一に学ぶ犬力 / ほしのあきに学ぶお茶くみ力 / 桑田佳祐に学ぶ浮気力 / 熊田曜子に学ぶスパム力 / 新庄剛志に学ぶ風呂敷力 / 福山雅治に学ぶ弟力 / 浜崎あゆみに学ぶ鎖国力 / 深津絵里に学ぶ触媒力 / 宮崎あおいに学ぶ博愛力 / 沢尻エリカに学ぶ潜伏力 / 樹木希林に学ぶおばあちゃん力 ほか。

作 : 山田隆道
定価 : 850円