LINEが、子ども向け動画配信アプリ「LINE KIDS動画」をiPhone向けに近日提供開始すると発表した。LINE電話に続き、アグレッシブに新サービスを展開するLINEだが、その戦略には首をかしげてしまう要素も散見される。

なぜ動画サービスをタブレットで楽しめないのか

LINE KIDS動画は28タイトル1500本以上のコンテンツをラインナップする子ども向けの動画サービスだ。LINEでは、子どもたちにとって、本当に見たいコンテンツが揃っているとし、親にとっても安心してみせられるとアピールする。安心のコンテンツ、安心の価格、安心の管理機能で親子のコミュニケーションや絆を深めてほしいというわけだ。

このサービスは、まず、iPhone向けのアプリが公開されることになっている。動画サイトなのだから、iPad用のものがあればいいと思うが、とりあえずはiPhoneからだ。

でも、iPad用のアプリは出ないんじゃないかとも思う。というのも、LINEをiPadなどのタブレット端末で使おうとすると、iPhoneやAndroidスマホなどにすでに設定してあるアプリのアカウントが無効になってしまう。履歴もキレイさっぱり消える。だから、LINEを日常的に使っているユーザーは、いつも携帯しているスマホにLINEアプリをインストールし、それだけを使っているはずだ。まさに電話やかつてのキャリアメールと同じで、着信は唯一無二の端末が受ける。機種変更では過去の履歴をユーザーの努力で移行させなければならない。わかりやすいといえばわかりやすい。

だから、iPadがもう一台あって普段から子どもが使える状態にしてあっても、このLINE動画を見せてやるには、自分のiPhoneを子どもに渡す必要がある。

親のスマホを子どもが使うことの意味

このことは、子どもにとって本当にいいことなのだろうかという疑問も残る。このサービスは1~6歳の子どもとその保護者向けのサービスとして提供されるが、彼らはいわゆるデジタルネイティブとして、これからの日本を背負っていく世代だ。そんな世代が、親のスマートフォンを一時的に借りて使うという行為がどういうことなのかを誤解してしまわないのだろうか。

リビングルームにテレビがあって、それでアニメを見るというのは、家族で共有しているテレビなので問題はないと思う。スクリーンを大人の番組のために明け渡さなければならなくて、子どもが理不尽な想いをするようなことがあっても、それはそれでいい。それもまた社会の構造だ。

ところが、LINE KIDS動画を楽しむためには、必ず、親のiPhoneを借りなければならない。動画を楽しんでいるときにも電話は着信するだろうし、メールも届く、LINEのトークメッセージだって、その端末に届くだろう。そのたびに、母親に端末を戻さなければならず、せっかく楽しんでいた動画を中断しなければならない。

そのことによって、端末そのものが母親のものであり、自分はそれを一時的に貸してもらっているにすぎないのだという認識ができるようになればいいのだが、それがきちんと伝わるかどうか。

端末に紐付けられるLINEアカウント

LINEは、インストールした端末の電話番号で本人認証し、さらにメールアドレスを登録することで、そちらでの認証も可能になる。

この仕組みがあるために、メールアドレスで認証すれば、電話番号の異なる端末であってもLINEをインストールし、自分のアカウントで使うことができる。今はMNPによって電話番号を維持したまま、さらに、キャリアメールでなければ、メールアドレスを維持したまま電話会社を乗り換えることができる。デバイスの変更はSIMを入れ替えればすむことなので、機種変更なども容易だ。

ところが、LINEアカウントは、電話番号とメールアドレスに紐付けられているにもかかわらず、端末が変わるとLINEのコミュニケーション履歴がリセットされてしまう。今回のサービスのメインユーザーになるような若い母親が、ママ友との連絡に使っているiPhoneでかわしてきた会話が失われてしまうのだ。

たとえば子どもにせがまれて、iPadにLINEをインストールしてしまったらどうなるか。もちろん、警告のメッセージは表示されるが、よく読みもせずにそのまま進めてしまったら、その結果、iPhone側のコミュニケーション履歴はきれいさっぱりなくなってしまうのだ。

どうせ、たいした会話をしているわけではないから、トーク履歴なんて失われてもかまわないといった考え方もあるだろう。今はIMAP対応などで事情が変わっているが、かつてのキャリアメールも似たようなものだったしSMSも同様だ。通話にいたっては会話が終わったことでそのままやりとりの内容は消えてしまう。LINEによるメッセージ履歴も似たようなものだと新しい世代の人たちは考えるのかもしれない。

Windowsタブレットを起爆する可能性

このマルチデバイスの時代に、なぜ、LINEがこうした仕様に頑なにこだわり続ける理由はわからない。パソコンでもスマホでもタブレットでも自由にコミュニケーションが楽しめて、そして、たとえ端末が故障したり盗難にあったりしても、デジタル的に失われるものは何もないというのが、これからの時代の新しい当たり前ではないのだろうか。LINE KIDS動画のサービススタートは、こうした時代にマッチしたものなのかどうか。

ちなみに、LINEはiOSまたはAndroid用アプリと併行して、パソコン用のアプリを使うことができる。同時にログインすることも可能だ。今後、Windows用のLINE KIDS動画がリリースされるようなことがあれば、もしかしたら、Windowsタブレットの需要が一気に急上昇といったことが起こるかもしれない。

2014年3月28日追記:
本稿内容の一部に、児童等の「LINE KIDS動画」アプリの利用について、保護者等のLINEアカウントの貸与が必須という誤解をうける記述があるとのご指摘がありました。

「LINE KIDS動画」アプリでは、アプリのインストール後に、保護者等のLINEアカウントで登録済みのメールアドレスを使って認証を済ませることで、保護者等の「LINE」利用端末とは別個の端末であっても、合計3台まで動画閲覧等の機能を使うことができます。そのため、「LINE KIDS動画」アプリのみを利用する場合、必ずしも保護者等の「LINE」利用端末を貸与する必要はありません。