今回のテーマは「ディスラプティブ・イノベーション」だ。

いつものしゃらくさい横文字だが、今回は日本語訳が最高にイカしているので早々にご紹介しよう。

「破壊的イノベーション」という意味である。

破壊、いい言葉だ。どうせなら「ディスラプティブ」などと言わず「デストロイ」とか「クラッシャー」とか言った方が、情弱どもも覚えやすくて良かったのではないだろうか。

情弱ほど影響を受けやすい?キーワード

しかし、はしゃぐのはここまでだ。この「ディスラプティブ・イノベーション」は、今まで出てきた用語の中で一番、情弱にも関係ある。むしろ情弱ほど影響を受けやすい話かもしれないのだ。しかも悪い意味で。

今まで、どれだけ口を酸っぱくして「IoT!IoT!」と叫ばれ続けても、その意味が覚えられないどころか、まず「information of TIMCO」の方が出てきてしまうし(むしろこれのおかげで辛うじて「IoT」というアルファベットを覚えることができている)、意味がわかったところで、自分以外の誰かがこの「IoT」を普及させ、我々はそのおこぼれで生きていくのだろう、という予感を感じるだけだった。

そういう、頭のいい奴が食いこぼしたハッピーターンの粉を舐めて生きている奴にとって、このコラムに出てくる用語は直接関係ないものばかりで、関係あるとしたら人工知能が人間を越えて、人類は滅ぼされるかもしれないという話の時だけだ。そうなったらまず、粉を舐めている奴から処分されていくだろう。

まず「破壊的イノベーション」とはどういう意味か。どうやら「破壊的技術」によって引き起こされるのが「破壊的イノベーション」らしい。破壊的技術と言われると魔貫光殺砲的なものを想像するが、現実は楽しくない。

破壊的技術:従来の価値基準のもとではむしろ性能を低下させるが、新しい価値基準の下では従来製品よりも優れた特長を持つ新技術のことである。また、このような技術、製品、ビジネスモデルがもたらす変化を破壊的イノベーションという。(引用:「破壊的技術」『フリー百科事典 ウィキペディア日本語版』2017年6月29日 (木) 22:00)

簡単に言うと、新しい技術ができて、古い技術が淘汰されたという話だ。

労働者すべてに降りかかる「破壊」

例えば、火炎放射器搭載のスマホが開発され、火炎を放射しないタイプのスマホが開発されなくなった、というのは破壊的イノベーションではない。車が普及して馬がいらなくなった、というような、まったく別の新しい技術が古い技術を凌駕するのが破壊的イノベーションである。

また、破壊的イノベーションは前述の通り「従来の価値基準のもとではむしろ性能を低下させる」という特徴がある。つまり、車も登場したての頃は、不具合も多く操作も難しく、移動手段としての質は馬より劣っていて、「馬乗った方が速えよ」と言われるものだったかもしれない。

だが、「いや、でも車は糞しないし」など、他の点で馬より利点があったため、ある程度のシェアを確保し、そのうち機能的にも馬を越え、馬は移動手段としては淘汰された、ということである。

もっとわかりにくく言うと、美人で頭も良い女が社内での男性人気を独占していたとする。しかし、それより容姿も頭も悪いが、とにかく軽い女が入ってきて、品質より軽量型であることを重視する男がまずそちらに流れ、そのうち、いつまでも高くて重い美人よりも、さらに軽さを増していく女の方が支持され、シェアを確保するに至る、という現象である。

これは働く者全員にとって脅威である。働いていなかったとしても、働いている両親に食わせてもらっている、という人間には関係ある。いつ自分が従事している仕事が破壊される側になるかわからないのである。

破壊されたらどうなるかというと、仕事がなくなり食いっぱぐれる。よって、破壊される前にこれから主流となる技術の方に乗り換えなければならない。当然、いつまでも馬を売っている情弱は餓死である。

しかし、フリーランスならそういう乗り換えもできるかもしれないが、サラリーマンの場合、自分の一存で経営方針が変わることはそうそうないので、経営陣が頑なに馬を売り続けると、共倒れである。

しかし、新しい技術も最初はポンコツなため、古い技術に完全にとって変わるまで、それなりに時間がかかるものである。我々情弱ができることは、新しいことにむやみに飛びついてさらに失敗することではない。

「俺が定年するまで、この業界、もってくれ」と神に祈ることである。


<作者プロフィール>
カレー沢薫
漫画家・コラムニスト。1982年生まれ。会社員として働きながら二足のわらじで執筆活動を行う。デビュー作「クレムリン」(2009年)以降、「国家の猫ムラヤマ」、「バイトのコーメイくん」、「アンモラル・カスタマイズZ」(いずれも2012年)、「ニコニコはんしょくアクマ」(2013年)、「やわらかい。課長起田総司」(2015年)、「ねこもくわない」(2016年)。コラム集「負ける技術」(2014年、文庫版2015年)、Web連載漫画「ヤリへん」(2015年~)、コラム集「ブス図鑑」(2016年)など切れ味鋭い作品を次々と生み出す。本連載を文庫化した「もっと負ける技術 カレー沢薫の日常と退廃」は、講談社文庫より絶賛発売中。

「兼業まんがクリエイター・カレー沢薫の日常と退廃」、次回は2017年7月11日(火)掲載予定です。